リゾリン脂質の一つであるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)の血液脳関門 (Blood-Brain Barrier、BBB)障害モデルでの役割を検討するために、in vitro BBBモデルとin vivoモデルを用いて検討した。 In vitro BBB モデルに低酸素-無グルコースを負荷した虚血再灌流モデルでは、虚血負荷により内皮細胞ではS1Pの合成酵素であるスフィンゴシンキナーゼ1(Sphk1)とS1Pの細胞外輸送に関わるトランスポーターであるABCA1のmRNA発現が上昇していた。また、BBBを構成するアストロサイトではABCA1の発現が上昇していた。虚血再灌流負荷後の培養上清中のS1P量をELISAで測定したところ、内皮細胞、アストロサイト、ペリサイトで産生の増大が観察された。これら3種類の細胞を共培養したBBBモデルを用いた検討では、虚血再灌流で増加したS1Pの培養上清中への放出が、ABCA1トランスポーターの阻害作用を持つプロブコールの処理により減少した。さらに、プロブコールは虚血再灌流障害により誘導されるBBBのバリアー機能低下を軽減した。 次に、一過性中大脳動脈閉塞によるin vivo脳梗塞モデルを用いて、プロブコールの作用を検討した。プロブコールの投与により、梗塞巣の減少や低分子トレーサーの透過性が減少し、in vivoにおいてもプロブコールのBBB保護効果が観察された。以上のことから、虚血時におけるS1P経路の抑制は脳血管障害に保護的に働くと考えられた。また、プロブコールは虚血再灌流障害時にS1P経路を抑制して、脳保護効果を示すと考えられる。
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