研究課題
我々はこれまで、成体脳虚血動物モデルへ骨髄間葉系幹細胞を静脈内投与すると、治療効果が得られることを報告してきた。これまでの基礎研究の知見より、骨髄間葉系幹細胞移植による神経損傷に対する治療効果のメカニズムは、①サイトカインによる神経栄養作用、②血管新生、③脱髄軸索の再有髄化、④神経再生による脳の可塑性の調節、と多段階的に発揮することによることが判明している。今日の進歩した医療にあっても、重症の低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy, HIE)は、死亡率が15-25%であり、生存児の25-30%が永続的な脳障害を起こすと言われている予後不良な疾患と言える。神経周産期的管理技術の向上によりその発症は減少してきているとはいえ、今なお未解決な点が多い。発達脳は成熟脳に比べて、神経の高い可塑性を示しやすいが、虚血負荷には脆弱であるという違いがあるため、上述した骨髄間葉系幹細胞の段階的作用メカニズムを考慮すると、HIEに対する高い治療効果が期待できるが、治療効果のメカニズムに関する基礎的データが不十分である。本研究では、発達脳における虚血性疾患に対して、骨髄間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC)の治療効果を検討する。我々は、HIEの動物モデルに対し、MSCを移植し、動物用MRI、行動学的解析、組織学的解析方法を用いて、MSCの治療効果のメカニズムを解明する。現在までに、本研究費によって、HIEの動物モデルに対する骨髄間葉系幹細胞移植による治療効果の行動学的解析、MRI解析、免疫組織学的解析を行っている。以上のように、補助金は補助条件に従って、有効に使用されている。