研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、高齢者の軽微な頭部外傷後に発生する慢性硬膜下血腫術後において、被膜の自然退縮による治癒に至るメカニズムを解明するために本研究を続行してきた。術中に採取された慢性硬膜下血腫被膜を用いてWestern blotにて、apoptosisと関連が示唆されているCaspase signaling, Autophagy signalingやNF-kB signalingについて検討を加えた。 まず、Caspase signalingにおいては、Caspase3, Cleaved Caspase-3, PARPなどの発現を認め、免疫染色においては、血管内皮やfibroblastにおいて発現が認められた。すなわち慢性硬膜下血腫被膜においてapoptosisがおこっており被膜の増大ならびに縮小に関与している可能性が示唆された。 NF-kB signalingにおいては、IKKbeta, IKKgamma, IkappaBalpha, NF-kBなどの発現が確認されたが、免疫染色では被膜の血管内皮において発現を確認した。また、マウス脳血管内皮培養細胞を用いて慢性硬膜下血腫内溶液を添加することによりNF-kBの活性化が確認され、VEGF inhibitorによりNF-kBの活性化が抑制されることが確認できた。これすなわちVEGFからNF-kBのシグナル伝達系の活性化が引き起こされ、被膜の増大に関与していることが判明した。 Autophagy signalingにおいては、beclin, Atg3, 7, 12, LC 3A/Bの発現をWestern blotにて認め、免疫染色ではこれらの発現はfibroblastにおいて認められた。 以上のように、これらのシグナル伝達系が深く慢性硬膜下血腫被膜術後の自然退縮に深く関与している可能性が示唆された。
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