研究課題/領域番号 |
26462191
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
秋元 治朗 東京医科大学, 医学部, 教授 (10212440)
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研究分担者 |
丸山 隆志 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (40301543)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 悪性髄膜腫に対する光線力学的治療 / 悪性グリオーマに対する光線力学的治療 / 光線力学的療法と化学療法の相乗効果 / 一重項酸素 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
原発性悪性脳腫瘍に対するTalaporfin sodiumと半導体レーザー光を用いた光線力学的療法(PDT)が保険適応となってから一年が経過し、その治療対象となった臨床症例は着実に増加しており、その効果も明確に認められている。本研究では(1)現状の治療方法論における作用機序の詳細な解明、(2)治療効果向上を得るための方法論の修飾、更に(3)癌幹細胞への効果探索などを目的としている。本年度の成果としては、(1)(2)に対しては確立されたヒトグリオーマ細胞の3種類の細胞株を用いたin vitro studyを行った。 既報では光感受性物質の濃度の差による細胞死率の変化を報告していたが、今回は薬剤投与量を一定とし、照射するレーザー光のエネルギー量を変化させることによる細胞死形態、細胞死率の差を検討した。結果として5J/cm2の照射と10J/cm2以上の間には細胞死率に有意差はなかった。光感受性物質投与量とレーザー光エネルギーの諸条件下にflow cytometerと細胞死関連の各種assayを行った結果、薬剤量30μg/ml、レーザーエネルギー5J/cm2がapoptotisとnecrosis分画の比で良好な条件であることを示した。(J. Toxicol.Sci 39(6): 821-7, 2014及びLasers Med Sci 30(6), 1739-45, 2015) 更に悪性グリオーマに対して標準的に用いられる抗癌剤であるTemozolomide(TMZ)とPDTの併用による相加相乗的効果の有無につき検討、TMZを前処置した方が、より効果増強が得られることを見出した。(Photodiag Photodyn Ther 11(4): 556-64, 2014)更に悪性髄膜腫の2種の確立された細胞株を理研セルバンクより入手し、前述のヒトグリオーマ細胞同様のPDTによる細胞死効果が示されることを学会報告している。 これらの研究成果は、実臨床で行われている原発性悪性脳腫瘍に対するPDTの遂行根拠となるものであり、今後もさらなる知見を積み重ねてゆく所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目的の達成にあたって、現在まで順調に研究成果を示せているものと判断している。 まず悪性グリオーマ、悪性髄膜腫という原発性悪性脳腫瘍の代表的疾患に対して、培養細胞レベル及び動物実験レベル(悪性グリオーマのみ)でのPDTの有効性及びその機序、さらに抗癌剤との相加相乗効果を示すことができ、それぞれの知見を詳細に英文論文にて公表できたことが挙げられる。これら一つ一つの科学的知見の蓄積こそが、実臨床におけるPDTの普及に繋がるものと考えている。 実際、これらの研究成果と、自らの臨床経験を日本脳神経外科学会総会や日本脳腫瘍学会などのシンポジウムで発表することにより、国内でPDTを開始する施設が徐々に増えてきている。PDTが国内の原発性悪性脳腫瘍の治療成績の向上に確実に寄与していることを日々実感している。(現在国内で8施設にてPDT施行が可能) 更に、これらの業績は脳神経外科領域に留まらず、口腔外科学会や獣医学会での講演依頼を受ける様になった。本研究がPDTの更なる適応拡大の一助となる可能性も見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題として、まず悪性髄膜腫細胞の移植モデルを用いたPDTにより、本腫瘍に対するPDTの有効性を確立したい。In vitro系では既にその有効性を示してきたが、in vivo modelにて形態的に、分子病理学的に(Flow cytometer、Proteomicsなどを用いる予定)で評価していきたい。更にPDTによる免疫反応の賦活機序の詳細につき、本モデルを用いて検討していきたい。 次に、TMZを複数回負荷して確立した薬剤耐性細胞、及び悪性グリオーマ幹細胞へのPDT効果につき検討する予定である。既に前者についてはin vitro studyを重ねており、薬剤耐性細胞株に対してもPDTは有効性を示している。今後、幹細胞株(北海道大学近藤亨博士より供与)に対してのPDT実験を予定している。 更に実際にPDTを施行した臨床例の病理組織に対する組織学的検討により、実際のPDT効果を左右した予測因子を探索していく予定である。具体的にはTalaporfin sodiumの取り込みに関わるSLC46A1というHeme transporter、排泄に関わるGADD45alphaの腫瘍細胞における発現多寡を検索、更に一重項酸素発生及びその消化に関わる因子である、HIF-1 alphaやGST-pi、MnSODなどの発現度と実際の治療成績の関連性を検討してゆく。最終的にはFFPE切片から抽出した蛋白、DNAを用いて、Proteomicsや網羅的DNA解析などによりOmics解析を行ってゆく予定である。 これらの知見こそが悪性脳腫瘍に対するPDTの信頼性を高めてゆくものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
PDTの普及を図るべく、国内各所における学会にて講演を行った結果、前年度に比して旅費が多かった。物品費に関しては、前年度に購入したものを使用できたため、抑制することができた。次年度には新たな動物実験を予定していたこともあり、支出を可能な限り抑制した。
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次年度使用額の使用計画 |
動物実験及び病理組織学的検討を行う予定であり、動物購入費用及び免疫組織化学やProteome解析、Flow cytometer解析などに用いる薬剤などの消耗品費に充当する予定です。
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