研究課題/領域番号 |
26462192
|
研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
川端 信司 大阪医科大学, 医学部, 講師 (20340549)
|
研究分担者 |
平松 亮 大阪医科大学, 医学部, 助教 (40609707)
古瀬 元雅 大阪医科大学, 医学部, 講師 (70340560)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 悪性神経膠腫 / 放射線治療 / ホウ素化合物 / 中性子捕捉療法 / コウジ酸 |
研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy; BNCT)は、極めて殺細胞効果の高いα粒子を用いて生物学的に腫瘍細胞を選択的に治療し得るため、正常組織に浸潤性に発育する悪性脳腫瘍の克服が期待されている。BNCTの治療効果はホウ素化合物の種類・投与方法などにも大きく左右される。現在までに臨床試験に用いられてきたホウ素化合物(BSH, BPA)では、ある程度の治療効果が示されたが未だ不十分と言わざるを得ない。BNCTはホウ素化合物の改良にこそ大きな伸びしろと魅力があり、本研究では腫瘍選択的粒子線治療であるBNCTのさらなる治療成績向上を目指し、腫瘍指向性新規ホウ素キャリアーとして開発した“ホウ素クラスター修飾コウジ酸(KA-BSH)”の有用性に関し検討し、臨床応用への可能性を探る。 国内研究協力者である切畑光統教授(大阪府立大学・生命環境科学)とともに、BNCT用新規ホウ素化合物として数種の腫瘍指向性新規ホウ素化合物(コウジ酸‐BSHおよびその類縁)を作成した。これらの薬剤を用いて悪性神経膠腫培養細胞に対し、in vitroでの集積について確認・スクリーニングを実施し、KA-BSHを用いて腫瘍細胞への集積特性(停留時間、暴露濃度・時間の変化による薬剤細胞集積)について確認した。またBNCTでの治療効果は、集積薬剤の絶対量のみならず細胞内・外の局在にも左右されるため、抗BSH抗体(切畑ら、大阪府立大学)による免疫染色を用いてその局在を検討し、新規化合物での優れた細胞内集積が期待できた。 また脳腫瘍モデルラットを用い、KA-BSHを中心とした候補薬剤の全身投与を実施し、薬剤分布を検討したが、静脈内投与での脳腫瘍への移行は不十分であり、当初計画通りCEDによる投薬が望ましいと考えられている。本薬剤はBNCTにさらなる治療成績向上をもたらす可能性が高いと判断し、脳腫瘍モデルでの指摘投与条件を決定後、中性子照射実験による生存期間延長効果を確認していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
安定した生存期間を示すF98グリオーマ移植担脳腫瘍モデルラットを作成した。本モデル動物に対し、静脈内全身投与によりコウジ酸‐BSH(KA-BSH)および関連候補ホウ素薬剤を投与した後、組織内ホウ素濃度を測定した。組織内ホウ素濃度はICP-AESを用いて腫瘍および腫瘍側脳、対側脳など組織別に行い、摘出組織に対するBSH特異的免疫染色(切畑ら、大阪府立大学)用標本を作製した。これらの実験によりKA‐BSHのiv投与時の薬物動態の解明と至適投与条件の検討を加え、パイロッテ研究の結果から中性子照射に向けたプロトコールの選定・絞り込みを行っている。 これらの化合物を用い、実験動物健常脳に対し、ivおよびCEDにより新規化合物投与後脳を摘出し、正常脳における化合物の分布を確認す計画を立てているが、化合物の生合成に若干の遅れが生じ、CEDでの利点を解明するための投与実験との比較検討には遅れが生じている。また同様の理由で、担腫瘍脳におけるKA‐BSHのCED投与後の分布を同様の化合物を用いて確認する実験計画にも若干の遅れが生じた。その後化合物整合性に関しては順調に進行し、27年度に実施予定の中性子照射実験に向けての準備は整っている。
|
今後の研究の推進方策 |
BNCTにおける理想的な腫瘍指向性ホウ素薬剤として新規開発した“ホウ素クラスター修飾コウジ酸”の有用性に関し検討し、臨床応用への可能性を探るため、以下の研究計画・方法を立案した。①候補となる新規化合物の腫瘍細胞への集積性、②中性子照射による殺腫瘍細胞効果の確認、③動物モデルを用いた薬物動態および最適な投与方法・照射条件の探索、④動物モデルを用いた中性子照射による安全性および治療効果の確認。これらの研究を通じて、BNCT用の新規ホウ素化合物としてホウ素クラスター修飾コウジ酸の有用性に関し詳細な検討を加える。 また本申請では、脳腫瘍治療の障壁であるBBBの問題を克服するために新規の薬剤投与手法であるConvection enhanced delivery (CED)を用い、動物モデルに対するホウ素クラスター修飾コウジ酸の投与も予定している。これにより最適な化合物投与条件を確定し、中性子照射実験を行い臨床応用について最終的な検討に入る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
26年度予定予算の一部は、新規ホウ素化合物(KA‐BSHおよびその関連薬剤)の脳腫瘍モデルラットおよび正常ラットを用いた薬物集積・分布実験、中性子照射によるパイロット研究に使用予定であったが、中性子源としての原子炉利用制限および薬物生合成に若干の遅れが生じたことから、平成27年度に使用を予定し準備が整っている。
|
次年度使用額の使用計画 |
新規ホウ素化合物(KA-BSH)生合成およびその他の薬剤を含めた候補化合物の絞り込みに若干の遅延が生じた。26年度予定であった脳腫瘍モデルラットおよび正常ラットを用いた薬物集積・分布実験を追加施行する必要があるためこれに使用予定としている。薬剤生合成の遅延に関しては現在解消されいるため、26年度に予定していた研究計画の一部を27年度に遂行し、全体としての計画遅延を解消する見込みである。
|