研究課題
ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy; BNCT)は、極めて殺細胞効果の高いα粒子を用いて生物学的に腫瘍細胞を選択的に治療し得るため、正常組織に浸潤性に発育する悪性脳腫瘍の克服が期待されている。BNCTの治療効果はホウ素化合物の種類・投与方法および化合物の分布特性などによって大きく左右される。現在までに臨床試験に用いられてきたホウ素化合物(BSH, BPA)では、ある程度の治療効果が示されたが十分とは言えない。中性子源が原子炉から加速器へと移行し、次世代のBNCTではホウ素化合物の改良こそ大きな伸びしろと魅力といえる。そこで本研究では、腫瘍指向性新規ホウ素キャリアーとして開発した“ホウ素クラスター修飾コウジ酸(KA-BSH)”の有用性に関し検討した。BNCT用新規ホウ素化合物として数種の腫瘍指向性新規ホウ素化合物(コウジ酸‐BSHおよびその類縁)を作成した。これらの薬剤を用いて悪性神経膠腫の培養細胞に対し、in vitroでの集積について確認・スクリーニングを実施し、KA-BSHを用いて腫瘍細胞への集積特性について確認した。またBNCTでの治療効果は、集積薬剤の絶対量のみならず細胞内・外の局在にも左右されるため、抗BSH抗体による免疫染色を用いてその局在を検討し、優れた細胞内集積が確認できた。脳腫瘍モデルラットにおいては、KA-BSHを中心とした候補薬剤の全身投与を実施し、薬剤分布を検討したところ、静脈内投与での脳腫瘍への集積絶対量はやや不十分であるが、正常脳に対する集積比は良好であった。また、CEDによる投薬では、腫瘍への非常に高い集積が認められた。原子炉の再開はなく、大規模な再検証が不可能であったが、先行させたパイロット研究の結果、本薬剤は悪性神経膠腫に対するBNCTの治療成績向上をもたらす可能性が高いと結論付けた。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Radiat Oncol.
巻: 12 ページ: e26
10.1186/s13014-017-0765-4
Neurol Med Chir (Tokyo).
巻: 56 ページ: 361-371
10.2176/nmc.ra.2015-0297