研究課題/領域番号 |
26462225
|
研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
若松 延昭 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 遺伝学部, 部長 (60274198)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 二分脊椎 / アレイCGH / トリソミー |
研究実績の概要 |
二分脊椎は無脳症、頭蓋脊椎破裂とともに、神経管閉鎖障害(neural tube defects; NTD)(OMIM #182940)の主要な疾患の1つであり、脊柱管を形成する脊椎骨の先天的な形成不全のために脊髄が脊椎の外に出て、様々な神経障害が見られる。本年度、解析を行った症例は重度知的障害、多発奇形と低身長が見られる姉・弟例であり、姉にはキアリ2型の二分脊椎が見られ、2歳8か月で死亡している。本疾患は胎生期の脊椎や脳などの様々な器官形成に関与する遺伝子(タンパク質)の異常が病因と考えられる。以下の研究実績を得た。1)Gバンド法による姉と弟の染色体解析では異常が見られなかったが、弟のアレイCGH解析で、2番染色体短腕末端部(18.77 Mb)の重複と5番染色体短腕末端部(17.89 Mb)の欠失を同定した。2)弟のリンパ芽球を用いてFISH解析を行った結果、2番染色体短腕のDNA断片が5番染色体短腕のDNA断片部位に転座して入れ替わることで、2番染色体短腕のDNA断片量が過剰になっていた。以上より両親の一方に2番染色体短腕(2p)と5番染色体短腕(5p)に均衡転座があると考えられた。3)染色体の断点部を含むDNA断片をPCRで増幅後、断点部位を決定した。4)3)のプライマーを用いて、家系員のゲノムDNAを解析した結果、父と健康な兄に2pと5pに均衡転座が認められた。以上の解析結果より、姉にも弟と同じ染色体異常(2番染色体短腕のトリソミーと5番染色体のモノソミー)があると考えられた。2p末端のトリソミー(重複)と5p末端のモノソミー(欠失)が見られるNTDは今までに海外から4例報告されている。さらに2p末端のトリソミーと他の染色体のモノソミー(15q(長腕)末端、9p(長腕)末端など)でもNTDが見られることより、本症の病因は2p末端部の18.77 Mbの重複と考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アレイCGHとFISH解析では、2p末端部の約19Mbの染色体断片が、5p末端部に転座して入れ替わり、その結果、5p末端部の約18Mbの染色体断片が欠失していた。ゲノム量に異常が見られた両染色体断片の大きさがほぼ同じであったので、姉と弟の染色体異常はGバンドでは同定できなかったと考えられる。両親の片方に均衡転座がある場合に子どもにモノソミーとトリソミーが見られる。実際、父親に2pと5pに均衡転座が認められた。1)2分脊椎が見られた姉と弟に共通の症状(重度知的障害と成長障害)が見られる。2)2p末端のトリソミー(重複)と5p末端のモノソミー(欠失)の染色体異常は、両親の片側に2pと5pの均衡転座があるときに見られる。3)海外の複数の症例に2pトリソミーでNTDが発症している。以上より、死亡している姉に見られた二分脊椎は、2pトリソミーが病因と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1)2p末端のトリソミー(重複)と5p末端のモノソミー(欠失)が見られるNTDは、今までに本家系の姉症例を含めて5例報告されている。その中で、2pの重複領域(約19Mb)の長さは本症例が一番短く、この領域に二分脊椎の病因となる遺伝子が局在すると考えられる。マウスのNTDの病因遺伝子との比較を行い、候補遺伝子を決定し、病因を明らかにするために、その遺伝子が過剰に発現するトランスジェニックマウスの作製を開始する。 2)二分脊椎の兄弟例は極めてまれである。この度、愛知県心身障害者コロニー中央病院脳外科で兄弟例を経験した。両症例にキアリ2型奇形が見られた。乳児期に手術を行い、経過は良好である。現在、明らかな発達遅滞は見られない。この2症例のエキソーム解析やアレイCGH解析を行い、兄弟に共通の遺伝子変異あるいは染色体異常を同定し、それが両親に見られるか否かを明らかにし、病因の絞り込みを行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
880円の残額がある。これは、予定よりも物品費を安く購入できたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度は、残額をなくするように研究費を有効に使用する。
|
備考 |
バリン代謝経路の酵素、HIBCHの欠損症では、メタクリリル-CoAが蓄積してミトコンドリア内のSH化合物やタンパク質のSH基と結合し、還元状態の低下や電子伝達系酵素等の活性障害を引き起こし、重篤な細胞の機能障害が起こります。今回、我々は、本邦初の2症例のHIBCH欠損症を同定し、本症例を含めた全6症例の変異HIBCHの生化学的解析を行い、残存酵素活性と臨床症状が関連することを初めて報告しました。
|