放射線照射後の硬膜および硬膜周囲組織の経時的変化を組織学的に評価した。マウス脊椎への10Gy、20Gy単回照射を行い、硬膜外fibrosisの発生の程度、およびfibrosis発生の中心的役割を果たすとされるTGF-β1の発現量を4段階(Grade0~3)にスコアリングして、非照射群と比較した。非照射群では硬膜外fibrosisの発生は認めなかったが、10Gy照射群では照射後16週よりGrade 2以上の硬膜外fibrosisが散見され、20Gy照射群では照射後12週頃よりGrade 2以上の硬膜外fibrosisが発生し、16週以降は全例で硬膜外fibrosisが観察された。また、非照射群と比較して、10Gyおよび20Gy照射群で照射後1週と12週以降にTGF-β1の過剰発現が観察された。2Gy×10回の分割照射群でも同様の評価を行ったが、硬膜外fibrosisの発現は乏しかった。さらに、電子顕微鏡を用いて硬膜とその周囲組織の微細構造を評価したところ、くも膜の最外層であるarachnoid barrier cell (ABC) 層が照射後1週で肥大化し、12週および24週では菲薄化していた。 本研究により、マウス脊椎への放射線照射により硬膜外fibrosisが誘発されることが確認され、他の組織での放射線fibrosisと同様にTGF-β1の過剰発現が認められた。特に高線量照射後に硬膜外fibrosisは発生しやすく、このような環境下での手術では硬膜周囲の癒着に伴う術中硬膜損傷のリスクが非常に高くなるものと考えられた。また、照射後に菲薄化がみられたABC層は、細胞間にtight junctionを有し、強固なバリアとして髄膜透過性に強く関与する。したがって、ABC層の菲薄化に伴い髄膜透過性が亢進する可能性があり、これが照射後手術における髄液漏発生の一因になるものと推察された。
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