研究課題/領域番号 |
26462238
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
辻井 雅也 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40444442)
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研究分担者 |
長谷川 正裕 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (40308664)
須藤 啓広 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60196904)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 血流障害 / サルコペニア / フリーラジカル / ロコモティブシンドローム / 肥満 / 末梢血管障害 |
研究実績の概要 |
要介護の原因に運動器疾患が関与することは明白で、新たな予防戦略への期待は高いが、骨粗鬆症と並ぶ代表的なロコモティブシンドロームであるサルコペニアでは病態メカニズムは不明な点が多く、予防策や治療の確立には至っていない。しかし近年、サルコペニアへの関心は急速に高まっており、整形外科では骨格筋を姿勢保持や運動といった人間活動の中心的臓器として、サルコペニアの予防、治療の重要性が広く認識され、多くの報告がなされるようになった。内科領域でも骨格筋が糖代謝の恒常性を維持する重要な器官として報告が増加している。特に多くの内科的疾患の基礎となる生活習慣病と関連の深いメタボリックシンドローム、なかでも肥満とサルコペニアの関連(sarcobesityと表現される)についての関心は高い。 以上のことから、生活習慣病による慢性炎症がサルコペニアの病態に関与しており、さらには肥満と関連の深いASOなどの末梢血管疾患が更なる酸化ストレスを引き起こし、筋損傷だけでなく、筋損傷後の不十分な再生によりサルコペニアを増悪させる可能性を疑った。さらに血流障害により引き起こされた酸化ストレスの改善がサルコペニアの治療方法の一つになり得ると仮説した。 我々は遊離筋肉移植やコンパートメント症候群、また挫滅症候群といった骨格筋の血流障害に由来する局所や全身性疾患に関する基礎研究に従事してきた。なかでも本邦で2001年より臨床応用されているフリーラジカル除去剤(edaravone)や炎症性サイトカインの調節因子であるNF-κBに対する核酸治療が骨格筋の虚血/再潅流障害を抑制することを示してきた。これらの知見を活かし、メタボリックシンドロームの代表である肥満モデルでの骨格筋の酸化ストレス障害を確認し、血流低下時の筋再生能とその際の細胞内小器官の役割を評価し、さらに抗フリーラジカル治療の可能性を検討することが本研究の目的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに本年度予定していた実験のうちアポトーシス研究以外は終了し、結果は平成27年の学術集会で報告する。以下にその概略を述べる。 (実験1)肥満モデルにおける骨格筋障害の検討:レプチン遺伝子欠損による過食からの肥満モデル(C57BL/6JHamScl- ob/ob, 8週齢)とコントロールマウス(+/+)を購入し、これらの後肢骨格筋を前脛骨筋(type2線維優位)と腓腹筋(type1線維優位)で評価した。組織学的にはHE標本にてob/obマウスの骨格筋線維の周囲に脂肪沈着を認め、筋線維の形態は丸みを帯びていた。さらに筋線維束内の筋線維数が少なかった。これらは肥満により増殖した脂肪細胞による慢性炎症と考え、その主因である酸化ストレスマーカーとサイトカインを生化学的に評価した。骨格筋をポリトロンホモジナイザーにて破砕し、TBARS法にてmalodialdehyde(MDA)を、またELISA法にてTNF-α、IL-6発現を評価し、いずれも肥満モデルで有意に高い結果であった。 (実験2)肥満モデルでの血流低下時の骨格筋再生の検討:実験1と同じマウスを用いた。虚血はこれまでに用いてきた歯科矯正用輪ゴムで駆血を行う予定であったが、ob/obマウスの体重増加に伴う大腿部の肥大のため皮膚障害を認めたために、大腿動脈を結紮切離することで後肢の血流低下を引き起こした。術後1,2,4週で筋肉を摘出し、摘出前にレーザードップラー血流計を用いて筋血流を測定した。またHE染色にて筋線維損傷を評価し、筋の再生過程に関して免疫組織化学的にMyoD発現を評価した。結果は大腿動脈切離にて有意に血流が低下し、その後2週まで徐々に改善したが、正常より低値を示した。また正常とob/obマウスで血流低下に差はなく、4週で筋再生を認めた。しかし組織学的に肥満モデルでは筋核が少なく、またMyoD発現が著明に低かった。
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今後の研究の推進方策 |
In vivo研究において、8週齢のob/obマウスでは後肢骨格筋の血流障害はなく、コントロールと同様の経過であった。しかし組織学的な形態変化と酸化ストレスやサイトカインの増大が示され、ob/obでは骨格筋が慢性炎症に曝されていることが示された。さらに血流障害時の筋再生が不良であった。これらから肥満による日常的な慢性炎症がサルコペニアの一因である可能性が考えられ、さらに筋肉由来のサイトカイン(マイオカイン)を放出することで肺、血管、腎臓など全身性にも影響を及ぼすことが推測された。さらに末梢血管障害が合併するメタボリックシンドロームでは筋肉減少はさらに増悪し、これもサルコペニアの増悪因子の可能性が考えられた。 次に酸化ストレス障害の主要因であるフリーラジカルに対する治療効果を検討し、抗フリーラジカル治療が筋肉減少の新たな予防策となることを証明したい。 (実験1)血流低下時の筋細胞死メカニズムの検討:筋細胞死の病態は以前より壊死が主因で、制御不能と考えられてきた。しかし他臓器ではアポトーシスが優位と考えられ、近年では骨格筋でもアポトーシスが重要で、細胞死を制御しうるとの報告もある。そこで血流低下に曝した骨格筋を細断、フィルタリングにて100μm以下としてAnnexinV とpropidium iodideを用いてフローサイトメトリーでの定量評価を計画している。先行実験として蛍光顕微鏡を用いた半定量評価を開始した。 (実験2)マウス筋芽細胞C2C12での酸化ストレス障害の機序と治療:次年度に予定していたin vitro研究も開始しており、現在H2O2による酸化ストレス障害の適正条件を評価している。ストレスを与えるH2O2濃度を確定し、抗フリーラジカル治療の効果を検討する。またミトコンドリア活性や小胞体ストレス、オートファジーといった細胞内小器官の病態、治療への関与を検討する予定である。
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