まず特製の脱臼装置を完成させた。標本が適切な肢位で固定できるように装置の一部を改良し、脱臼の瞬間を捉えられるように透視装置のアームが脱臼装置内に設置できるように改良した。また上腕骨にかかるトルクを計測するためにロードセルを設置した。脱臼する際に上腕骨がどの方向に動いたのかを計測するために磁気センサーを設置し、動作確認を行った。 脱臼装置を完成させた後、まず豚の新鮮標本を使って実験の設定に問題がないか、前方への脱臼が生じるか、計測装置が正しく作動しているかを確かめた。豚の標本で確認ができた後に人体に近いサル(カニクイサル)の新鮮標本を用いて同様の設定確認および動作確認を行った。これらの予備実験にて骨頭が前方へ脱臼することを確かめて新鮮遺体を用いて本実験を行った。
脱臼実験と並行して、脱臼時に生じる上腕骨頭の陥没骨折(Hill-Sachs損傷)の実験も行った。どの程度の大きさのHill-Sachs損傷が術後再脱臼のリスクになるのかを調べる方法としてglenoid trackがある。このglenoid trackは肩関節可動域に影響されることが推測される。そこでglenoid trackと肩関節可動域との関係を調べた。新鮮遺体肩を特製の肩固定装置に固定し、2つの動作(内外旋、水平屈曲伸展)とglenoid track幅との関係を調査した。その結果、glenoid trackに最も影響を与えるのは水平屈曲伸展動作であることがわかった。水平伸展もしくは外旋角度が大きくなるほどglenoid track幅は小さくなっていた。水平伸展角度が大きくなるほどglenoid trackは外下方に変位し、水平屈曲角度が大きくなるほど内上方に変位していた。一方、外旋角度が大きくなるほどglenoid trackは外側に、内旋角度が大きくなるほと内側に変位していた。
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