研究課題/領域番号 |
26462291
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
今井 晋二 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (90283556)
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研究分担者 |
松末 吉隆 滋賀医科大学, 医学部, 病院長 (30209548)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 力学的骨形成調節 / 骨芽細胞 / 骨細胞 / pleiotrophin |
研究実績の概要 |
人口の高齢化により「運動による骨量増加」の重要性が強調されていますが、その医学的根拠は驚くほど貧弱です。実際に培養骨芽細胞を力学的に変形させると骨形成が増幅しますが、骨形成の力学的増幅には1~3%の変形を要します。しかし、実際に骨実質を1~3%も変形させると骨折を起こしてしまいます。これが0.5%未満といわれる骨の生理的変形では、骨芽細胞の直接的刺激による力学的骨形成調節機構が説明されえない所以です。 骨小腔は細胞外液で満たされ、骨細胞はその中に浮かんだように存在する。通常の運動負荷では0.5%以下といわれる生理的な骨実質の変形でも、骨小腔内には3Paもの波動圧が出現する。すなわち、通常レベルの運動負荷でも骨小腔内では、激しい細胞外液流により骨細胞が変形され、その程度は骨形成の力学的増幅に必要な2 - 3%の変形を凌駕する。このように骨小腔とその中に隔離された骨細胞が力学的刺激のアンプリファイアーとして力学的骨形成調節機構に機能しているのではないかとの考え方が支持されるようになった。波動圧による骨細胞への力学的刺激が骨形成の力学的調節機構を介在するとの仮説を実証するには、骨細胞の力学的刺激に反応して、骨芽細胞に伝えられる力学的骨形成調節因子が必要になる。我々はPTNが、骨形成時の骨細胞に強く発現される事から、この骨細胞由来の力学的骨形成調節因子ではないかと考えている。 今回の研究でPTNを全く産生しないPTN -/- マウスに、定量的に運動負荷を与え、骨量への影響を検討する。先ずinbred PTN +/+マウスの運動負荷群と運動非負荷群で骨の形成・成長を評価する必要がある。その上で、一方で実験群、すなわちinbred PTN -/-マウスで運動負荷群と運動非負荷群で骨の形成・成長を評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々も先ずPTN -/- マウスを作成し、その基礎的骨代謝、骨形態について調べたところ、当初、明らかな組織や臓器の欠損は認めず、その骨組織における表現型も一見、正常に見えた。しかし、継代を重ねてPTN以外の遺伝子背景が等しくなるように15代程度inbred化を進めると、PTN -/- マウスとPTN +/+マウスの表現型が明らかになり、低回転型骨粗鬆症を呈することが判明した(Imai et al. Bone. 2009)。 そこで詳細な研究には、PTN -/-マウスのinbred化が必要と考えられた。PTN -/+マウスのペアから十分量のinbred PTN +/+マウスとPTN -/-マウスを確保した。Southern blotting でgenotyping をしながら、各20匹程度の個体数を準備した。運動負荷試験では、トレッドミルを設置したケージで一定期間飼育することにより運動を負荷した。これまでの予備実験で一般的なマウスは一晩に4~5km走行することがわかっている。正常マウスでは運動負荷により健常下肢が長軸方向に成長する。成長の速度は年齢にも依存するので実験動物はinbred化を進めるだけでなく、年齢も厳密に均一化した。inbred PTN +/+マウス、PTN -/-マウスの各々10匹づつトレッドミルを設置したケージに飼育し、運動負荷実験期間は1ヶ月行った。統計学的処理を可能にする為にinbred PTN +/+マウスとinbred PTN -/-マウスの各20匹でデータをとった。これまでの方法に従って未脱灰硬組織標本を用いたカルセイン2重染色による骨代謝速度評価とCXD法による骨量測定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究ではinbred PTN +/+マウス、すなわち正常マウスでは運動を負荷した群は、不動化した群に比べ、骨形成と骨成長が旺盛な傾向があった。一方、inbred PTN -/-マウスでは、運動を負荷しても骨形成と骨成長の活性化は起こらず、inbred PTN +/+マウス、すなわち正常マウスの不動化群と同じ程度であった。一方、inbred PTN -/-マウスでは、不動化しても骨形成と骨成長は、inbred PTN -/-マウスの運動群と同程度は起こっていた。以上の結果から、我々のPTNが、骨細胞由来の力学的骨形成調節因子ではないかとの作業仮説に合致している。 しかし統計学的有意差を出すには、実験個体数が足りなかった。特に年齢に伴う骨形成の変化による影響を排除する為には、これまでの倍量程度の個体数が必要かもしれない。年齢を区切って、統計学的有意差のでる年齢層に絞り、実験を追加する予定である。
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