研究課題
培養骨芽細胞を力学的に変形させると骨形成が増幅しますが、骨形成の力学的増幅には1~3%の変形を要します。しかし、実際に骨実質を1~3%も変形させると骨折を起こしてしまいます。これが0.5%未満といわれる骨の生理的変形では、骨芽細胞の直接的刺激による力学的骨形成調節機構が説明されません。骨形成を担当する骨芽細胞は、骨組織のあらゆる表面に存在しますが、常に骨形成しているわけではありません。全く休止している細胞から活発に骨を産生している細胞まで幅広い活性を有しますが、その細胞の生涯で一致しているのは、骨形成を終了すると自ら産生した骨器質の中に埋没してしまうことです。骨に埋もれた細胞は骨細胞とその名を変えます。骨小腔は細胞外液で満たされ、骨細胞はその中に浮かんだように存在します。通常の運動負荷では0.5%程度といわれる骨の生理的変形を加えると、骨小腔内には3Paもの波動圧が出現し、これによる骨細胞の変形は骨形成の力学的増幅に必要な3%の変形を遥かに凌駕します。骨小腔とその中に隔離された骨細胞が力学的刺激のアンプとして骨形成の力学的増幅機構に機能しています。我々は、pleiotrophin(以下PTN)が、その力学的骨形成増幅機構の最終因子ではないかと作業仮説に達し、PTNを全く産生しないPTN -knockout マウスに、定量的に運動負荷を与え、骨量への影響を検討しました。実験では、一側下肢を外固定にて不動化した上で、運動負荷を与えました。PTN+/+マウスでは、非不動化側は運動刺激に反応して骨量が増加していたが、不動化側は骨量が減少していました。一方、PTN -/- マウスにおいては、不動化/非不動化に拘わらず、骨量は低下したままでした。以上の所見はPTNが、その力学的骨形成増幅機構の最終因子ではないかとの仮説を支持するものと考えます。
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