研究課題/領域番号 |
26462296
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
松本 健一 島根大学, 総合科学研究支援センター, 教授 (30202328)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エーラス・ダンロス症候群 / テネイシンX / 関節可動亢進 / 過剰運動症候群 / 発現差異プロテオミクス解析 / MALDI-TOF/TOF質量分析 / ESI-TSQ質量分析 |
研究実績の概要 |
まず、関節可動亢進(III)型エーラス・ダンロス症候群(EDS)の分子レベルでの診断法の確立のために、III型EDSと類似の臨床所見を示す過剰運動症候群(HMS)の患者(HMS/III型EDS患者)の血清を用いて、健常人血清と比べて、発現差異を示すタンパク質の包括的解析をMALDI-TOF/TOF質量分析計を用いて行った。その結果、106個の発現差異タンパク質を同定し、その内6個のタンパク質が有意に JHS患者血清中において、健常人に比べ発現増加していることが明らかとなった(p < 0.05, 患者血清vs. 健常人血清)。この6個のタンパク質の中には、補体C1r(C1R)、補体C9(C9)、ビトロネクチン(VTN)、C4b結合タンパク質alpha鎖(C4BPA)等の補体関連のタンパク質が含まれていた。この研究成果は、以下の学術論文に掲載された(Watanabe et al., Int. J. Mol. Med. 37, 461-467, 2016)。 また、III型EDSの原因遺伝子の一つとして知られているテネイシンX(TNX)の血清中での正確な定量のために、ESI-TSQ質量分析計によるTNX定量系の開発を行った。その結果、測定条件を決定し血清TNX量を定量することができた(論文作成中)。 また、III型EDSの発症機構の解明、特に腱や靭帯の弛緩におけるTNXの役割の解明のために、野生型マウスとTNX欠損(TNX-/-)マウスの胚性線維芽(MEF)細胞を調整し、それらをフィブリン三次元ゲルやコラーゲン三次元ゲル(フィブリン/コラーゲンゲル)にて培養し、ex vivoでのコラーゲン線維形成を調べた。生化学的な解析や電子顕微鏡観察により、野生型MEF細胞に比べて、TNX-/-MEF細胞の方がI型コラーゲン線維を細胞外に蓄積していることが明らかとなった。また、興味深いことに、TNX-/-MEF細胞を含むフィブリンゲル/コラーゲンゲルにおいて、ゲル収縮の促進が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HMS/III型EDS患者血清を用いての発現差異プロテオミクス解析により、HMS/III型EDSの病態バイオマーカータンパク質の候補として、補体関連の4個のタンパク質を同定することができた。また、この成果は国際学術雑誌のInt. J. Mol. Med.に掲載された。 また、ESI-TSQ質量分析計を用いたTNX定量系の開発を行い、現在論文作成中である。 さらに、III型EDSの発症機構の解明、特に腱や靭帯の弛緩におけるTNXの役割の解明のために、当初は野生型マウスやTNX-/-マウスの腱や靭帯由来の線維芽細胞の使用を考えたが、実際に行ってみると、それら初代細胞の増殖が悪く使用することが困難であることが明らかとなった。しかし、各系統マウスから胚性線維芽(MEF)細胞を調整することにより、この実験に用いることが可能な各細胞を十分量得ることができるようになった。その結果、これらMEF細胞をフィブリン三次元ゲルやコラーゲン三次元ゲルにて培養することにより、細胞外でのコラーゲン線維形成を、より自然状態に近い形で再現可能となった。また、興味深い現象として、TNX-/-MEF細胞を含むフィブリン/コラーゲンゲルにおいて、野生型MEF細胞を含むゲルに比べて、ゲル収縮の促進を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
HMS/III型EDSの原因遺伝子の一つとして知られるTNXのさらなる診断マーカーとしての可能性を確認するために、数十人のHMS/III型EDS患者の血清を用いて、ウェスタンブロット法により血清TNX量の相対定量を行う。 また、平成27年度に構築したESI-TSQ質量分析計によるTNX定量測定系を用いて、他のHMS/III型EDS患者や型不明のEDS患者の血清中のTNX量の定量を試みる。 さらに、III型EDSの発症機構の解明、特に腱や靭帯の弛緩におけるTNXの役割の解明のために、TNX-/-MEF細胞を含むフィブリン/コラーゲンゲルのゲル収縮の促進の分子機構を明らかにする。そのために、野生型MEF細胞とTNX-/-MEF細胞の細胞増殖、細胞移動、細胞形態を比較する。また、コラーゲンゲル収縮に関与することが報告されているマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性化やTGF-betaシグナル伝達系を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
関節可動亢進(III)型エーラス・ダンロス症候群(EDS)の分子レベルでの診断法の確立のために使用するMALDI-TOF/TOF質量分析計に搭載のレーザー管の経年劣化のため、平成26年11月末にレーザー出力が不能となり、その質量分析計が稼働しなくなった。このレーザー管の修理には、約506万円という高額の修理費が必要だったため、その修理費の一部に、平成26年度のこの基盤研究Cの88万円を繰越金とし当てることとした。しかしながら、実際にこの修理が平成27年7月に行われたが、学内の戦略的機能強化推進経費から全額の修理費を充当して頂けたため、繰越金の88万円は、平成27年度において全て実験試薬等の物品購入費に当てることが可能となった。さらには、購入予定の実験試薬等を安価で購入でき、また、試薬の消費量を抑えることができたため、380,877円の繰越金が平成27年度に生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
「今後の研究の推進方策等」に記載した研究内容で実験を遂行する予定であり、平成27 年度の繰越金の380,877円は、全て平成28年度の生化学試薬等の物品購入に当てる予定である。
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