研究課題/領域番号 |
26462302
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
内橋 和芳 佐賀大学, 医学部, 助教 (60452835)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 骨髄肥満 / 骨髄脂肪 / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
骨では加齢とともに脂肪組織が増加する、いわゆる骨髄肥満(脂肪髄)の状態となる。全身的な肥満症では脂肪細胞肥大によるアディポカイン産生異常、遊離脂肪酸による脂肪毒性、マクロファージによる慢性炎症が、種々の生活習慣病を引き起こす。骨髄脂肪も同様の機序を介して骨形成に影響を与え、骨粗鬆症の発症に関与していることが推測される。 ヒト骨髄脂肪組織の単独培養では、1) ヒト骨髄脂肪組織の中心部では、3週まで成熟脂肪細胞および造血細胞が保持され、辺縁部では、紡錘形のBone marrow stromal cell (BMSC) が出現した。このBMSCのうち、CD105/CD44共陽性の間葉系幹細胞が2.8%、脂肪滴を有する前脂肪細胞が0.75%含まれていた。2) ヒト骨髄脂肪組織内に含まれるCD45陽性の白血球はB・Tリンパ球、マクロファージによって構成され、これらにBrdUの取り込みが見られた。一方成熟脂肪細胞の核には陽性所見は認めなかった。BMAT辺縁部では、脂肪滴を有しないBMSCの約3%にBrdUの取り込みが見られた。前脂肪細胞にBrdUの取り込みはなかった。3) 骨髄肥満を誘導するためデキサメサゾンを投与したところ、BMSCに占める前脂肪細胞の割合が32%に増加した。インスリンでは増加しなかった。全体のBMSCの数に変化はなかった。 骨髄脂肪組織と骨芽細胞の混合培養を行うと、BMSCの新生が有意に抑制された。アディポネクチン分泌は単独培養同様に低値であった。レプチンは骨芽細胞との混合培養で有意に低下した。一方、骨芽細胞の増殖は、骨髄脂肪組織との混合培養により有意に減少した。骨芽細胞分化マーカーはいずれも著明に低下した。 今回の実験により骨髄脂肪組織と骨芽細胞は液性因子を介して、互いの増殖、分化を抑制していることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト骨髄脂肪組織の器官培養により、皮下脂肪組織と同様に成熟脂肪細胞の形態および機能の維持が長期間にわたり可能であった。さらに脂肪組織片周囲に間葉系幹細胞および前脂肪細胞を含む間質細胞が新生し、これが、脂肪組織の増殖に関与していることが示唆された。また、前述のとおり混合培養において、骨芽細胞とのアクティブな相互作用を解析することが可能であった。 さらに、骨芽細胞-骨細胞分化系列モデルを用いた骨髄脂肪との混合培養系の解析も現在進行中であり、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究により、骨髄脂肪組織と骨芽細胞との混合培養による相互作用が示された。骨芽細胞による脂肪組織からの骨髄間質細胞の遊走抑制因子の解明は、脂肪組織のexpansiveな増殖を抑えることにつながり、肥満の治療に役立つ可能性がある。一方、脂肪細胞による骨芽細胞の増殖・分化の抑制因子の解明は、骨粗鬆症の治療薬の開発につながることが期待される。しかし、その詳細なメカニズムの解明には、さらなる研究が必要である。今後、網羅的遺伝子解析の結果を踏まえて、骨芽細胞、脂肪組織相互の増殖・分化抑制因子の解明を進めていく。 その一方で骨芽細胞-骨細胞分化系列モデルを用いた混合培養を通して、in situでの細胞動態の変化を免疫組織化学、in situ hybridizationにて解析する必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験試薬や器具を買うのに不十分な金額であったため、次年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の交付金と合わせて、実験に使用するための試薬、器具を購入する予定である。
|