研究課題
加齢に伴い骨組織が減少するとともに脂肪組織が増加する、いわゆる骨髄肥満(脂肪髄)の状態となる。全身的な肥満症においては脂肪細胞肥大によるアディポカイン産生異常、遊離脂肪酸による脂肪毒性、マクロファージによる慢性炎症が、種々の生活習慣病を引き起こす。骨髄脂肪も同様の機序を介して骨形成に影響を与え、骨粗鬆症の発症に関与していることが推測される。前年度までの実験結果より、骨髄脂肪組織と骨芽細胞は液性因子を介して、互いの増殖、分化を抑制していることが示された。本年度は、骨芽細胞の骨芽細胞へ向かう分化段階によって脂肪組織が与える反応性に違いがあるかを検討するため、骨芽細胞-骨細胞分化系列培養モデルを構築した。マウス由来骨芽細胞株MC3T3-E1をコラーゲンゲル上に40万個播種し、分化誘導因子を添加した。その結果、①骨芽細胞は3週まで細胞数が増加した。②2週目以降から骨芽細胞周囲に石灰化がみられ、3-5週では骨小腔様構造を形成した。③sclerostin, DMP1などの骨細胞マーカーの発現が経時的に増加した。すなわち、本培養系では、骨芽細胞がコラーゲンゲル内に遊走し、骨小腔様構造の形成および骨細胞への分化を認めた。本培養系は、骨芽細胞から骨細胞への分化誘導が可能であり、今後、骨芽細胞系細胞の各分化段階に骨髄脂肪組織が与える影響を評価できる有用なツールである。
2: おおむね順調に進展している
これまで、in vitroで骨細胞を作製することは困難であったが、我々は比較的簡便な手法で骨細胞様細胞の作製に成功した。この細胞は骨小腔や骨細管に類似した構造を伴い、sclerostin, DMP1などの骨細胞マーカーを発現していることから、形態的、機能的にも骨細胞に近い細胞と考えられる。今後、骨芽細胞の分化段階に対する骨髄脂肪組織ならびにグルココルチコイドなど脂肪分化誘導因子の影響を検討する。
本研究により、骨髄脂肪組織と骨芽細胞との混合培養による相互作用が示された。骨芽細胞による脂肪組織からの骨髄間質細胞の遊走抑制因子の解明は、脂肪組織のexpansiveな増殖を抑制することになり、肥満の治療に役立つ可能性がある。一方、脂肪細胞による骨芽細胞の増殖・分化の抑制因子を解明することは骨粗鬆症のリスク因子の同定、さらには治療薬の開発につながる。また、骨組織は、骨芽細胞により産生される骨基質およびその中に埋没する骨細胞によって構成され、破骨細胞と骨芽細胞がそのリモデリングを行っている。骨組織は様々な細胞を含む組織であり、骨髄脂肪組織が分泌する液性因子がどの細胞種に影響を与えているのかについても注目する必要があると思われる。
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