研究実績の概要 |
【目的】高齢化の進む我が国では、変形性関節症(OA)の進行を抑制する原因療法の開発が急務であり、そのためにはOA病態の分子メカニズムの解明による治療標的分子の同定が不可欠である。我々は先行研究で、OA軟骨の変性に小胞体ストレスが関与することを明らかにした。本年度の目的は、OAの局所要因として最も重要なメカニカルストレスと小胞体ストレス応答について解明することである。 【方法】5週齢雄wistarラットの大腿骨頭と膝関節から関節軟骨を採取し、酵素的に軟骨細胞を単離した。初代培養細胞を5% CO2 incubator内に設置した培養細胞伸展装置STB-140で培養後、0.5Hz,10%伸展刺激(CTS)と15%圧縮刺激をそれぞれ0,4,12,24時間加えた。その後、qPCRにより小胞体ストレスをGrp78,Chop,Xbp1sの発現で、軟骨細胞機能をCol2a1,Acan,Mmp13の発現で評価した。また、アポトーシスをELISAとTUNEL染色によるDNA断片化で評価した。 【結果】4時間の10%CTSでは、刺激前と比べて小胞体ストレスとアポトーシスは同等であり、Col2a1,Acan,Mmp13がそれぞれ28%,31%,23%増加した。一方、12時間の10%CTSではXbp1sが増加し、Grp78,Chopはそれぞれ11%,49%の増加、アポトーシスは35%の増加、Col2a1,Acanはそれぞれ33%,42%の低下、Mmp13は13%の増加を認めた。24時間の10%CTSではこれらの変化が増強し、Xbp1s増加は顕著となり、Grp78,Chop増加はそれぞれ31%,88%、アポトーシス増加は52%、Col2a1,Acan低下はそれぞれ53%,50%、Mmp13増加は22%であった。以上のことから、過剰な伸展刺激では短時間の刺激で軟骨細胞機能が亢進するが、刺激が長時間継続すると小胞体ストレスは増加し、アポトーシスが亢進し軟骨細胞機能が低下することが示された。一方、15%圧縮刺激の解析は現時点では完全には終了していないが、10%伸展刺激と同様に長時間の刺激で小胞体ストレスが亢進し、アポトーシスが増加し軟骨細胞機能が低下する傾向にあった。
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