研究実績の概要 |
これまでに卵巣摘除(OVX)による閉経後骨粗鬆症モデルマウスを用いた研究で、骨吸収亢進状態がマウスの疼痛行動を誘発すること、骨吸収抑制剤の投与により骨吸収亢進状態と疼痛行動が改善することを明らかにした。しかし、その機序は未だに不明な点が多い。今回は骨粗鬆症に伴う疼痛発生機序について骨吸収時に起こる骨組織内の変化に注目して、その分子メカニズムを解明することを目的とする。さらに、OVXによる骨粗鬆症モデル以外に、尾部吊り下げによる非荷重下肢骨粗鬆症モデルマウスを用いて同様の検討を行った。 研究成果として、①OVXマウスではの疼痛行動は侵害受容体TRPV1, ASIC2, P2Xの拮抗薬で有意に改善され、その改善度は非ステロイド性抗炎症薬と比較して有意に高かった。②OVXマウスの骨組織内酸性環境抑制を抑制することで、疼痛行動は有意に改善した。③OVXマウスの骨組織では炎症性サイトカインのIL-1, -6, TNF-αの発現が亢進しており、サイトカイン受容体拮抗薬が疼痛行動を有意に改善した。 ④OVXマウスの骨髄細胞や骨組織はTRPV1, ASIC2, P2Xを発現しており、これらに対する拮抗薬は骨代謝マーカーの発現を有意に抑制した。 ⑤尾部吊り下げによる後肢非荷重モデルマウスの実験系を確立して、尾部吊り下げマウスが後肢に限局した骨粗鬆化を呈すること確認した。⑥尾部吊り下げ後肢骨粗鬆化マウスでは、局所性骨粗鬆化に伴い疼痛行動の誘発を認めた。これらの変化は再荷重により改善した。⑦骨吸収抑制薬のビスホスホネートを尾部吊り下げ中に投与することで、局所性骨粗鬆化と疼痛行動は有意に予防された。 以上の結果は骨粗鬆症に伴う疼痛発生機序を解明する上で重要であるとともに、骨粗鬆症患者の疼痛を改善する新しい治療法の開発に有用な成果であると考える。
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