研究課題
以前の研究において、胃切除ラットにおいて骨形成と骨吸収が亢進する病態を見出したため、胃から放出される内因性の物質が骨代謝の亢進を制御する可能性性が考えられる。そこで、本研究では胃切除動物の血清中の特定のタンパク質濃度に変化が生じ、その結果、骨代謝に関係する遺伝子発現変化が骨で起きていると考え、血清中タンパク質と骨由来mRNAの両サンプルについて、胃切除モデルで変化するタンパク質または遺伝子を網羅的に探索した。血清中タンパク質の網羅的解析では、胃切除で濃度変化を生じるタンパク質の大半が面白いことに肝臓より分泌されるタンパク質であった。骨において発現が2倍以上に変化した遺伝子群で起こりうる生物学的イベントについてIngenuity Pathway Analysis を用いてパスウェイ解析を行ったところ、炎症に関する遺伝子ネットワークを中心とした、遺伝子ネットワークが存在する可能性を見出すことができた。以上より、胃から分泌される内因性物質が門脈を経由し肝臓に作用し、更に肝臓において特定のタンパク質が分泌するのを制御していたが、胃切除により変化したのではと考え、胃切除後の肝機能について解析を行ったところ、生化学解析により軽微な肝障害を確認した。本研究では、胃から分泌される因子が明らかではないが、胃切除によって軽微な肝障害を認めたため、胃の内因性物質が肝保護的に働いており、切除することにより保護能を失っている可能性の一部を明らかにすることができた。その結果により、骨の炎症を中心とした分子メカニズムが働いている可能性が考えられる。しかし、胃の内因性物質と、骨の炎症に関わる肝臓の内因性物質を特定できていないため、この二つを明らかにする更なる研究が必要であるが、胃切除が肝機能に影響を及ぼすことを本研究で明らかにすることができた。