研究実績の概要 |
昨年度、Osterix(Sp7)プロモーター制御下でADAM10を骨芽細胞特異的に欠損させたマウスモデル(A10/Sp7)が重篤な皮膚疾患を呈することが明らかとなった。アトピー性皮膚炎では上皮細胞が産生するTSLP(Thymic stromal lymphopoietin)が関与していることが報告されている。そこでA10/Sp7マウス血清中のTSLP濃度を測定したところ、TSLP濃度はA10/Sp7マウスにおいて対照群と比較し1800倍もの高値を示した。この結果から、重篤な皮膚疾患はTSLPによるものと考えられた。しかし、なぜ上皮細胞で産生されるTSLPが骨芽細胞特異的にADAM10を欠損させたマウスにおいて高値を示すのかは明らかにはなっておらず、今後の検討課題として残った。 また今年度は、ADAM10の基質タンパク質であるNotchと破骨細胞分化についても検討を行った。Notchのリガンド(Jagged1, Dll1)を培養プレートに固相化し破骨細胞分化誘導実験を行った結果、リガンドを固相化した群では全く破骨細胞が形成されなかった。一方ADAM10を欠損させた骨髄細胞を用いた場合、リガンドを固相化した培養プレート上でも破骨細胞は形成されたことから、Notchシグナルは破骨細胞分化を抑制することが明らかとなった。また、Notchシグナルを受けた破骨細胞前駆細胞では、破骨細胞分化に必須の転写因子(c-fos, NFATc1)の発現が低下していた。また、これら必須の転写因子の発現を抑制する分子(Irf8, Mafb)の発現が上昇しており、抑制因子の上昇により破骨細胞分化が抑制されていることが明らかとなった。さらにADAM10欠損骨髄細胞の移植実験により骨量の有意な低下が観察され、生体内においても破骨細胞前駆細胞はNotchシグナルにより分化を制御されている可能性が示された。
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