研究課題/領域番号 |
26462325
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 聡一 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (40281810)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 吸入麻酔薬 / 学習記憶障害 / 海馬歯状回 / イソフルラン / セボフルラン |
研究実績の概要 |
「研究実施計画」に沿って研究を行った。H26年度の研究で、7日齢のラットに吸入麻酔薬(2%イソフルランおよび3%セボフルラン)を負荷すると、21日齢以降、海馬歯状回で異所性顆粒細胞(正常に顆粒細胞層まで移動せず、歯状回門に留まる細胞)の割合が増加することが明らかとなった。2%イソフルランより3%セボフルランの方が移動を阻害する効果がやや大きかったので、H27年度の実験は3%セボフルランを使用して行った。 6日齢にBrdUを皮下注射して7日齢に3%セボフルランまたは空気を負荷し、それぞれ負荷直前と8-13日齢にGABAA受容体拮抗薬であるピクロトキシンまたは生理食塩水(対照群)を腹腔内投与した。21日齢に潅流固定してH26年度と同様の方法で二重染色し海馬歯状回の顆粒細胞の移動を検討した、その結果、3%セボフルラン+生理食塩水を7-13日齢に投与した群では異所性顆粒細胞が増加したが、ピクロトキシンを7-13日齢に投与した群では顆粒細胞は正常に移動した。 次に6日齢にBrdUを皮下注射し、7日齢または14日齢に3%セボフルランまたは空気を負荷し、同様に21日齢に潅流固定して顆粒細胞の移動を検討した。この結果、14日齢に3%セボフルランを負荷した群では、7日齢負荷群と異なり、顆粒細胞の移動抑制は起こらず正常に移動した。 以上から、1)海馬顆粒細胞の幼若期の移動抑制には揮発性吸入麻酔薬によるGABAシグナリングが関与していること、2)GABAシグナリングによる移動抑制効果は生後13日齢までに起きていることが明らかとなった。齧歯類において、生後14日頃までの神経細胞ではCl-トランスポーターの分布が成体と異なり、このためGABAA受容体を介したGABAの作用は成体とは逆に興奮性となると考えられており、興奮性GABAシグナリングが移動抑制の原因と推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫組織染色による検討は計画通りの進行である。計画に従ってウエスタンブロッティング法による海馬でのGABAA受容体の定量も試みたが、使用した抗GABAA受容体抗体がウエスタンブロッティング法に適さないことが判明し、結果が出ていない。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り研究をすすめる。幼若期にはCl-トランスポーターの分布が成体と異なり、14日頃齢まではNKCC1 > KCC2、14日齢以降ではNKCC1 < KCC2となり、このためGABAA受容体を介したGABAの作用は成体とは逆に興奮性となると考えられている。H27年度の研究でこれが顆粒細胞移動に関与していることが示唆されたたため、H28年度はNKCC1阻害薬であるブメタニドを全投与した上で3%セボフルランを負荷すると、顆粒細胞移動が正常化するかを明らかにする予定である。また、引き続きウエスタンブロッティング法による海馬でのGABAA受容体の定量も試みる。余裕があれば吸入麻酔薬のもつNMDA作用の影響も検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
免疫組織染色法による研究が順調に進んだため、試薬、動物の仕様が予定より少なかった。またウエスタンブロッティング法に使用する電源装置と電気泳動装置は既存のものを使用することができたため、新たに購入する必要がなかった。以上の理由により想定していた使用額より少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度の物品費に充てる。
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