研究課題/領域番号 |
26462333
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
廣田 弘毅 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 准教授 (30218854)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海馬 / 扁桃体 / 全身麻酔薬 / マウス / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
前年度の検討において,海馬における静脈麻酔薬の抑制作用は扁桃体からの入力により調節され,トレイン刺激では脱抑制(TID: Train-Induced Disinhibition)を受けることを報告した.すなわち扁桃体の過剰興奮により海馬における麻酔作用は減弱すると推察された.今年度は,扁桃体/海馬連携の詳細なメカニズムを明らかにする目的で,海馬機能の低下が認められる疾患モデルマウスを用い,TIDに及ぼす全身麻酔の影響について電気生理学的検討を行った. 海馬機能の低下が認められるSAM-P8および対照マウス(SAM-R1) を麻酔後,大脳を摘出し扁桃体/海馬スライスを作製した. 海馬放線状層を電気刺激することにより,海馬CA1錐体細胞の集合電位(PS)を誘発した.また刺激電極を扁桃体海馬野(AH)に置き,扁桃体からの入力をシミュレートした. 海馬CA1を高濃度のチオペンタールで前処置し,PSをほぼ完全に抑制した.AHにトレイン刺激を与えると,TIDによりPSはチオペンタール投与前値に回復する.TID後に再びPSが抑制されるまでの時間経過を解析した結果,SAM-P8ではSAM-R1に比較してTIDが有意に遷延していた. TIDは,シナプス前の抑制性伝達物質(GABA)の一時的な枯渇により生じ,GABA貯蔵の回復とともに再びPS抑制が認められるようになると考えられた.SAM-P8ではGABAergic systemに異常があるため,TIDが著明に遷延したと推察される.扁桃体/海馬連携の失調は全身麻酔作用の不安定性を増強し,静脈麻酔覚醒後の興奮やせん妄に関与する可能性が示唆された. 次年度は,扁桃体の失調/過剰興奮の認められる統合失調症モデルにおいて,全身麻酔修飾作用の検討を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
統合失調症モデル動物の確認は,驚愕反応装置を用いたプレパルス抑制(PPI)にて行うが,一定のPPI反応を得るのに時間を要しているため.
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今後の研究の推進方策 |
現在,驚愕反応装置のプログラムを試行錯誤中であるが,近日中に一定の効果が得られる見込みである.プレパルス抑制(PPI)が予定どおり確認できれば,電気生理学的検討(in vitro)に入る.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は驚愕反応装置を用いた行動実験が主で,薬品やガラス器具を使用しなかったため次年度使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,電気生理学的検討を含めたin vitro研究が主となるので,薬品やガラス器具等に使用する.
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備考 |
1846年ボストンのマサチューセッツ総合病院において,Mortonにより世界で初めてエーテルによる全身麻酔が施行されてから160年以上が経過したが,全身麻酔のメカニズムには依然不明な点が多い.しかしながら,近年ではパッチクランプ法や遺伝子工学などの分子生物学的手法を駆使した解析も進み,麻酔の迷宮の一端が解き明かされようとしている.麻酔薬の作用機序仮説について,我々の研究成果を中心に概説したい.
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