研究実績の概要 |
今回我々は、統合失調症モデルラットから摘出した海馬/扁桃体スライス標本を用い、統合失調症による全身麻酔作用修飾機序を検討した。 4週齢の雄性ウィスターラットに2週間にわたって連日、methylazoxymethanol acetate(MAM)を腹腔内投与した(1mg/kg)。この時期のMAM投与は海馬/扁桃体の神経新生を抑制し、10週齢以降に統合失調症を発症させる。統合失調症の発症は、驚愕反応装置を用いたPre-Pulse Inhibition(PPI)の抑制効果により確認した(SZ群)。対照ラットには生理食塩水を同様に投与し、PPIが正常であることを確認した(C群)。ラットを麻酔した後、脳を摘出し海馬/扁桃体スライスを作製した。海馬放線状層を電気刺激することにより,海馬CA1錐体細胞の集合電位(PS)を誘発した.また刺激電極を扁桃体海馬野(AH)に置き,扁桃体からの入力をシミュレートした. 海馬CA1を高濃度のチオペンタール(0.1 mM)で前処置し,PSをほぼ完全に抑制した.AHにトレイン刺激(200Hz, 5s)を与えると,Train-Induced Disinhibition(TID)によりPSはチオペンタール投与前値に回復した.TID後に再びPSが抑制されるまでの時間経過を解析した結果,SZ群ではC群に比較してTIDが有意に遷延していた. TIDはシナプス前の抑制性伝達物質(GABA)の一時的な枯渇により生じるが,C群ではGABAの再取り込みにより再びPS抑制が認められるようになる.一方、SZ群ではGABA recruitmentの何らかの障害によりシナプス前からのGABA放出が抑制され,TIDが遷延したと推察された.統合失調症におけるTIDの遷延は,静脈麻酔覚醒後の興奮やせん妄に関与する可能性が示唆された.
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