研究課題
生体は手術、外傷、ショックなどの侵襲を受けると様々なストレス反応を示すことが知られている。過大な侵害刺激を受けると、容易に全身性炎症反応症候群 (systemic inflammatory response syndrome; SIRS) が惹起される。そして SIRS から周術期心筋虚血や敗血症,多臓器不全に陥ることが知られている。一方、ストレス蛋白質(heat shock protein;HSP)は生体において生体防御という極めて重要な役割を担っていることは良く知られている。種々の外的環境の変化に対する生体反応をストレス応答と呼んでおり、環境の変化に対し生体は迅速に反応する。ストレス蛋白質は、熱や化学物質などのストレスにより組織・細胞内に誘導される一群のタンパク質の総称である。ストレス蛋白質が誘導された組織・細胞は、再度のストレス負荷に対して耐性を獲得する。循環虚脱を招くことのある過大な侵襲に対して、生体は心血管系、血液凝固系におけるストレス反応を起こすがその詳細は明らかではない。私共は既に、血小板の粘着反応を促進するリストセチンが強力な血小板凝集促進作用を示すthromboxane A2の産生を介し、細胞増殖因子であるPDGF-ABの分泌および炎症惹起物質の一つであるsoluble CD40 ligandの遊離を促進することを明らかとしている。今回、thromboxane A2刺激による血小板活性化における低分子量GTP結合蛋白質の一つであるRacの関与を検討した。その結果、血小板においてRacはp38 MAPキナーゼの上流で機能し、そのthromboxane A2による血小板凝集反応において促進的役割をすることおよび、thromboxane A2によるPDGF-ABの分泌およびsoluble CD40 ligandの遊離を促進していることを明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
凝固・線溶系の中心的役割を担う血小板においてRacはthromboxane A2刺激においてp38 MAPキナーゼの上流で機能し、thromboxane A2による血小板凝集を促進することおよび、thromboxane A2によるPDGF-ABの分泌およびsoluble CD40 ligandの遊離を促進していることを明らかとすることが出来た。低分子量GTP結合蛋白質のRacを制御することにより、抗凝固作用および抗炎症作用が期待され、敗血症、DIC治療の新たな標的となりうる可能性を示唆することが出来た。
アンチトロンビンをはじめとする敗血症治療薬の血小板における作用機序の詳細を検討し、その抗凝固作用および抗炎症作用の分子機序を明らかとする。
実験モデルによる研究を継続する必要がある。
費用は、血小板実験に充てる。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Mol. Med. Rep.
巻: 10 ページ: 107-112
10.3892/mmr.2014.2143.