虚血プレコンディショニングによる心臓虚血再灌流障害の保護効果の機序の一つとして、末梢血中の骨髄由来幹細胞の動員と虚血再灌流組織への集積の増大が関与していることが明らかにされている。一方で、全身麻酔導入時には一過性の高濃度酸素投与を行う状況が生じるが、短時間の高濃度酸素曝露が骨髄由来幹細胞の動員や虚血再灌流障害に影響を与えるかはまだ明らかにはされていない。本研究では、短時間の高濃度酸素曝露が骨髄由来幹細胞の動員と虚血再灌流障害に与える影響について調べ、その分子・細胞機序を明らかにすることを目的とする。 平成29年度は、平成28年度に引き続き、短時間高濃度酸素投与が心臓虚血再灌流障害に及ぼす影響に関して、骨髄由来幹細胞の寄与の有無について調べた。C57BL/6マウスを用いたGFP陽性骨髄細胞移植キメラマウスで、5分間高濃度酸素曝露した3時間後に冠動脈左前下行枝を結紮し30分後に再灌流させた心臓虚血再灌流モデルを作製した(酸素曝露群)。コントロール群として、酸素曝露させないGFP陽性骨髄細胞移植キメラマウスで同様に心臓虚血再灌流モデルを作成した。モデル作製3日後にマウスを犠牲死させ心臓を採取し、パラフィン固定後に組織標本作製を行い、免疫染色法により心臓の左室の組織内の骨髄由来(GFP陽性)のc-kit陽性幹細胞数を定量評価した。GFP陽性細胞とGFP陽性/c-kit陽性細胞は、虚血再灌流の影響を受けない部位より虚血再灌流の影響を受ける左室前壁で多く認められたが、総細胞数では群間に有意差はなかった。しかし、酸素曝露群ではコントロール群と比較してより多くのGFP陽性/c-kit陽性細胞が認められた。これまでのデータを解析し、C57BL/6マウスにおいては、短時間の酸素曝露により骨髄由来幹細胞の動員が起こるが、虚血再灌流後の心筋保護については明らかではないことが示唆された。
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