【背景】GABAとグリシンは、小胞型GABA/グリシントランスポーター(VGAT)によって神経終末小胞内に取り込まれる。我々はVGATが減少したヘテロ接合体マウス(VGAT+/-)で炎症性疼痛反応が増強することを報告してきた。今回の研究では、プロポフォール、回収セボフルランの鎮痛・鎮静作用に対するVGAT低下の影響を野生型とヘテロ接合体マウスの2群で比較した。 【方法】プロポフォールを静脈投与後、立ち直り反射消失(LORR)、尾ピンチ反応消失(LTWR)、後肢ピンチ反応消失(LHWR)の濃度を、野生型(WT)とヘテロ(12-16週)で比較した。それぞれ鎮静と鎮痛の指標とされる。また、回収セボフルランを気化器から濃度モニターしながら投与して、同様な指標を使って評価した。また幼弱期マウスに麻酔薬暴露2ヶ月後の学習能力への影響を調べた。 【結果】プロポフォールによるLORRでは、両群間での有意差はなかった。一方、LTWR、LHWRは、プロポフォールの呼吸抑制作用が強くなり、実施不可能であった。また、回収セボフルランによる鎮静・鎮痛作用において、群間差はなかった。麻酔薬暴露後の水迷路試験等で、成長後の学習能力への影響は最小限であった。 【考察と結論】VGATの発現低下は、セボフルランやプロポフォールの鎮静効果に影響が少なかった。この結果は、VGAT低下による小胞内への抑制伝達物質取り込みが減少した状態でも、セボフルランやプロポフォールによる抑制系賦活による鎮静作用の効果発現は、シナプス後膜の受容体への作用によって可能であることを示唆する。
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