重症感染症に伴う高次脳機能障害は、患者の社会復帰を妨げ、入院期間延長など社会的な不利益も大きいが、これまで十分な対策や治療法確立は行われていなかった。そこで、本研究課題では重症感染症に伴う高次脳機能障害の発生機序を明らかにし、新たな治療戦略を確立することを目的とした。 水チャネルであるアクアポリン9(AQP9)は、水だけでなくエネルギー運搬に関与することが示唆されている。また、培養神経細胞において、炎症性サイトカインやエンドトキシンの投与により、AQP9の発現が低下することが明らかとなった。さらに、盲腸結紮穿刺による敗血症モデルマウスの脳では、炎症サイトカインが上昇することをELSAで確認し、AQP9の発現が低下することがわかった。このAQP9の低下は、デキサメサゾンの投与により抑制できることを確認した。 次に、敗血症モデルマウスの行動実験を行った。情動を検討するオープンフィールドテスト、不安行動を検討する明暗箱テスト、うつ状態を評価する尾懸垂試験、学習を評価する新規物体認識試験を施行した。敗血症モデルマウスでは、いずれのテストも低下する傾向にあり、高次脳機能障害が生じていると考えられた。さらに、デキサメサゾンの投与により改善傾向にあった。 AQP9以外の高次脳機能を悪化させる因子を見出すべく、培養アストロサイトにエンドトキシンを投与してmRNAを回収し、cDNAマイクロアレーを行った。発現が変動する多くの因子を見出すことができたため、今後、候補の絞込みを行っていく予定である。
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