過去の研究結果ではグルコース300mg/dl+インスリン0.05mg/mlの条件下で1%セボフルラン6時間曝露がHepG2細胞の増殖能を亢進したが、2型糖尿病患者の実臨床において内因性インスリン濃度の上昇はあまり見られないことから、高血糖単独、特に臨床的に時折遭遇する血糖レベルであるグルコース濃度200mg/dlに注目して検討した。グルコース濃度200mg/dl及びグルコース濃度100mg/dl+マニトール100mg/dlともに3時間曝露後にコントロール(グルコース100mg/dl)と比較して細胞内活性酸素種(ROS)濃度が有意に低くなることがわかった(1時間曝露の時点では差がなかった)。しかし、グルコース濃度200mg/dl群とグルコース濃度100mg/dl+マニトール100mg/dl群の比較では差がなく、血糖値よりも浸透圧の差が影響していることが推察された。次にROS低下のメカニズムを探るため、スーパーオキシドディスムターゼ活性上昇の有無をそれぞれ曝露1時間後及び3時間後に測定した。複数回測定したが残念ながらスーパーオキシドディスムターゼ活性の上昇は見られなかった。 過去の文献を参考に他のメカニズムを探索することも検討したが、先のROS濃度低下の意義を検証するためにROSの一時的な低下が癌細胞増殖能低下に繋がるか、MTTアッセイを用いて24時間後の時点で検討した。グルコース濃度200mg/dlとグルコース濃度100mg/dl+マニトール100mg/dlはコントロールと比較して増殖能に差は認めなかった。 以上よりグルコース濃度200mg/dl及びグルコース濃度100mg/dl+マニトール100mg/dlといった軽度の高浸透圧環境において、ごく短時間のROS発生抑制効果が認められたが、その効果は癌細胞の増殖能に影響するほどの強度ではないことがわかった。
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