研究実績の概要 |
これまで我々はサイクロスポリンA (CsA)をはじめとして薬剤による脳保護作用を検討する研究を積み重ねてきた。CsA は脳内P-glycoprotein(P-gp)により脳内への浸透が妨げられている。そこでP-gpを発現するmultidrug resistance 1a(mdr1a)遺伝子が欠失しているノックアウトマウスを使い、CsAの脳内浸透阻害をなくして脳虚血実験を行なったところ、CsA は濃度依存性に脳保護作用と神経毒作用の両面を有することが確認された{Murozono et al, Eur J Pharmacol. 2004 498(1-3)}。また脳内の物質輸送を担うP-glycoprotein(P-gp)は、血液脳関門(BBB)の一部とされているが、我々はmdr1a ノックアウトマウスと正常マウスでの虚血実験を行い比較したところ、P-gp は薬剤の脳内浸透を調節するだけでなく、その存在自体が脳虚血のダメージに影響することを突き止めた{ Murozono et al, Neurochem Res. 2009 34(9)}。さらにP-gp は脳虚血下でIL-6 を中心としたサイトカインや、Bcl‐2 などのアポトーシス関連物質へのP-gp の影響が確認している(第56 回日本麻酔科学会にて発表)。更にCsA が脳血管内皮細胞内のP-gp により脳内への浸透が妨げられている状況とP-gp による虚血傷害助長作用を考慮して、Ondansetron とCsA と併用療法を行なった。結果、脳虚血において脳のダメージを著明に減少させることができた。以上のように我々は脳保護剤の効果やP-gp を代表とした脳組織を取り巻く環境など、脳虚血においてそれぞれのファクターがいかに作用するのかを調査しその条件を脳保護戦略にいかに活用するかを探り続けている。
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