3か月ラットを腹部手術群、腹部手術+fluoxetine投与群、コントロール群の3群に分けて、術後の学習・記憶障害と海馬のneurogenesisに対する手術侵襲の影響とfluoxetineの予防効果を調べた。fluoxetineは飲水に溶解し、10 mg/kg/dayを術前21日間経口投与した。腹部手術はイソフルランを用いた全身麻酔下に、腹部に3 cmの切開を加えた後、回腸を腹腔外に出し拇指と人差し指で3分間擦ることによって行った。その後腹壁と皮膚を縫合・閉鎖し、鎮痛のために創部には0.2%ロピバカインで局所麻酔を行った。全工程を12分間とし、コントロール群は別のケージで12分間過ごした。手術後4日目からMorris Water Mazeを施行し(1日2回のtrainingを5日間行い、その翌日にprobe testを行う)、学習・記憶障害を調べた。また、手術4日目に安楽死させ、脳を摘出。海馬の凍結切片を作成し、Ki67抗体およびDoublecortin抗体を用いて免疫染色を行った。 Morris Water mazeにおいて腹部手術群で学習・記憶能力が低下したが、術前にfluoxetineを投与した群では学習・記憶能力が保持された。また、海馬歯状回のSGZのDoublecortin抗体陽性細胞数も、腹部手術群で低下したが、術前にfluoxetineを投与した群ではコントロール群よりは低値だったものの保持された。Ki67抗体陽性細胞数は3群間に差はなかった。今回の結果から、術後の学習・記憶障害にはneurogenesisの低下が関与していることが示唆された。また、術前のfluoxetine投与には術後の学習・記憶障害を軽減する作用があることが示された。現在、海馬の蛋白抽出液を作成し、BDNFなどのneurogenesisに影響を与える因子について解析中である。
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