研究実績の概要 |
虚血再灌流障害(IRI)を、先行するごく短時間の虚血(PC)が臓器保護になることが各種臓器で確かめられている。申請者らは先行研究において、低酸素の組織において低酸素誘導因子 (hypoxia inducible factor, HIF)-1が発現し、このHIF-1が抗炎症作用を持つことを明らかにした。研究代表者らが行ってきた肺障害の研究においてIRIは急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こす要素である。そのARDSの分子機序にはFas/FasLを介したアポトーシスが重要な役割を演ずる。 プロリル水酸化酵素 (prolyl hydroxylase domain proteins, PHDs)の阻害は、HIF-1を活性化する。我々はPHD阻害薬であるdimethyloxalylglycine (DMOG)がFasL誘導性の肺胞上皮細胞のアポトーシスと急性肺傷害を軽減させることができるかどうか検証した。 培養細胞においてDMOGはHIF-1αを上昇させアポトーシスを有意に軽減させた。HIF-1の転写活性阻害薬であるechinomycinの投与およびHIF-1αのsiRNAのトランスフェクションによってHIF-1経路を阻害するとDMOGによる抗アポトーシス効果は観察されなかった。 マウスの実験では、DMOGを投与すると肺内のHIF-1αの上昇とFasの減少がみられた。DMOGを投与したマウスではFasLの気管内注入による caspase-3活性の上昇や,アポトーシスによる細胞死が有意に抑制された。FasLの気管内投与により炎症反応が惹起されることが知られているが、肺内の炎症性メディエーターの上昇や病理組織学的変化もDMOG投与で有意に改善していた。 以上より、PHD阻害はARDSにおける肺胞バリア機能を保護するための新規の治療法となりうると考えられた。
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