【背景】手術は病気を治療するために行うものであるが、同時に大きな侵襲が生体に生じる。手術成績の向上を図るためには、この手術侵襲を低減することが大きな課題である。特に最近は患者の高齢化・ハイリスク化が進み、手術が成功したものの社会復帰まで回復できない患者の存在が問題となっている。迫り来る超高齢化社会に対処し医療費の適切な運用を可能にするためにも、手術侵襲軽減は喫緊の課題である。 【目的】今回の研究の第1の目的は、基礎研究と臨床研究の双方から、手術侵襲の本体を解明し、患者の耐侵襲性を事前に評価する方法を確立する事である。その上に、周術期管理で手術侵襲を軽減する方法を確立する事を目指している。 【結果・結論】我々は、患者の活性酸素病態の指標として、血液中の総過酸化脂質量を、夾雑物質が多く含まれる臨床検体においても正確にかつ迅速に測定する新しい方法を確立した。その方法により評価した手術患者の術前の活性酸素病態は、患者が手術中に受ける侵襲の大きさを高精度に予測できることが判明した。つまり、患者が受ける手術侵襲の大きさは、術前の手術患者の活性酸素病態に依存するのである。さらに、麻酔法により、その手術侵襲の大きさに差が認められた事から、周術期管理により手術侵襲をコントロールする事は十分可能な取り組みである事が示唆された。 【今後の研究の展開】これらの研究成果を元に、麻酔管理を中心としたより良い周術期管理法を確立し、手術をより安全に受け、かつ手術からのいっそうの早期回復を実現する治療法の確立を目指していく計画である。
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