これまで慢性腰痛症の高齢者における末梢血細胞の遺伝子発現およびエピジェネティクスな変化と、痛み指標(douleur Neuropathique 4 (DN4) questionnaire、マギル疼痛質問票)、うつ状態、不安状態、認知機能、基本的ADLDとの関係を解析し、DN4値の増加と末梢血細のtransient receptor potential ankyrin 1(TRPA1)のDNAメチル化増加とmRNA発現の減少が関係することを明らかにしてきた。また慢性疼痛を呈する中枢神経系において、TRPA1の発現はtransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)の発現と並行して増減すると考えられているが、相反するとの報告もある。そこで慢性疼痛患者の末梢血細胞におけるTRPA1とTRPV1発現の関係を調査し、TRPV1発現の増加は痛み症状の多様性、痛み強度、うつ状態、不安状態と関連し、逆にTRPA1発現の減少は痛み症状の多様性と関連することが明らかとなった。また免疫寛容状態と関連するtransforming growth factor β(TGFβ)との関係も示した。今後、中枢神経系の神経炎症、末梢血における免疫状態、腸内細菌叢の3つの視点から慢性疼痛を捉える新規プロジェクトを推進する上で、本研究により重要な礎を築くことができた。 一方、遷延性術後痛に末梢血細胞の遺伝子発現やエピジェネティクスが関与しているか否かについて、遷延性術後痛の発症頻度が高いとされる鏡視下肺切除術を受ける患者で、同様の解析を経時的に行う臨床研究を開始した。また手術中の侵害受容刺激反応が遷延性術後痛の発症と関係するかどうかを検討する目的で、手術中の侵害受容刺激反応を数値化する試みを行い、新規に考案した数式の特許出願を行った。
|