「研究の目的」本研究の目的は、開腹術後の痛みのメカニズムと局所麻酔薬の鎮痛メカニズムを明らかにすることであった。そのために、ラット開腹モデルを用いて行動分析と免疫染色を行った。 「結果のまとめ」 ① 皮膚切開後は、皮膚の痛覚過敏は続くものの、歩行数の減少は少なく自発痛は非常に少ないことが示唆された。筋肉まで切開が及ぶと、広範囲に痛覚過敏が生じるだけでなく、歩行数が大幅に減少したことから、強い自発痛が生じていると考えられる。本研究で評価した痛み関連行動において、虫垂切除は、単なる腹部切開と比較して有意差はなかった。しかし、虫垂切除は体重減少からの回復を遅延させた。 ②免疫染色の結果は、皮膚切開に比べて腹部筋肉切開は多くの脊髄後角のニューロンを活性化していること示した。③ 腹部切開部の局所麻酔薬投与は、一過性に痛覚過敏を緩和させ、歩行数の減少を抑制した。加えて、脊髄後角における活性化ニューロンを減少させた。この結果は、局所麻酔薬は創部からの侵害刺激情報が脊髄へ伝達されることを抑制していることを示唆する。 「結論」 1)腹部皮膚切開は、小領域での痛覚過敏の原因であるが、自発的な痛みは少ない。2)腹部筋肉切開は、広範囲に痛覚過敏を惹起し、自発痛の原因となる。3)虫垂切除の術後痛に与える影響は小さい可能性がある。4)局所麻酔薬は、創部からの侵害刺激情報が中枢へ伝達されることを阻害することにより鎮痛効果を発揮する。
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