研究課題/領域番号 |
26462381
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
福井 聖 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (80303783)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Voxel-based morphometry / 慢性疼痛 / 脳形態変化 / 灰白質密度 / 灰白質体積 |
研究実績の概要 |
慢性疼痛患者92人(慢性腰痛;N=68、線維筋痛症;N=5。頸肩腕症候群;N=10、CRPS;N=9) に3-T MRI 装置を用いてVBM を施行し、2週間以内に痛みの質問表;PDAS(疼痛生活障害評価尺度)、PCS(Pain Catastrophizing Scale:疼痛破局的思考尺度)、下位3要素、反芻(何度も痛みを考えてしまう)、拡大視(痛みを必要以上に強い存在と感じる)、無力感(痛みから逃れる方法がないと考える)、HAD(Hospital Anxiety and Depression Scale:HAD)、NRS(Numerical Rating Scale)を用いて患者評価を行い、局所灰白質体積変化との相関を調べた。 慢性疼痛患者のVBMでは、健常者と比較し、V左右の扁桃体、ブロードマン 28(後嗅内皮質)、ブロードマン34 (前嗅内皮質)、右側の紡錘状回(Fusiform gyrus)、小脳(cerebelum)、左側上側頭極(superior temporal poleの委縮が認められた。 また、破局化思考のPCS尺度は左側扁桃体灰白質体積の減少度との相関が認められた。 53人の慢性腰痛患者に対してVBMを施行し、健常者と比較し、左右の扁桃体(Z-socre mean±SD; Right 3.44±1.61 Left 3.05±1.40)、ブロードマン 28(後嗅内皮質)、ブロードマン34 (前嗅内皮質)の委縮が認められた。また扁桃体、ブロードマン 28(後嗅内皮質)では、右側が左より、有意に委縮しており、左右差が認められた。慢性腰痛患者では、不快情動の処理に関与する扁桃体の機能低下が痛み行動として発現していると推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性疼痛患者全体、慢性腰痛患者ではVBMで、扁桃体など不快情動の処理に関与する部位で灰白質減少を認めた。慢性疼痛患者全体では破局化思考のPCS尺度と左側扁桃体灰白質体積の減少度との相関が認められた。 慢性腰痛の脳形態変化では、扁桃体、ブロードマン 28(後嗅内皮質)では、右側が左より、有意に委縮しており、左右差が認められた。これらの結果から慢性腰痛患者では、不快情動の処理に関与する扁桃体の機能低下が痛み行動として発現していると推察される。 扁桃体は恐怖や不安など,主に負の情動の処理に関与する部位であり、慢性疼痛では,恐怖や不安など過剰な負の情動は中枢性鎮痛機能を低下させ,慢性痛へ転化させる引き金になると考えられた。また慢性痛患者においては、左右の扁桃体機能に相違がある可能性が考えられた。嗅内皮質は不安など精神的ストレス反応,認知機能とも関係し、ワーキングメモリに極めて重要な役割を果たすと考えられている。嗅内皮質の灰白質体積が減少したことは、痛みに伴う不安などの精神的ストレスによるもので、慢性疼痛の認知機能低下にも関係するのではないかと推察される。紡錘状回(Fusiform gyrus)は、対人間で適切なコミュニケーションをとる能力が不足し、コミュニケーション障害のある自閉症スペクトラム障害患者で、fMRIで活性低下する領域として報告されており、慢性疼痛患者のコミュニケーション障害に関与するのではないかと考えられた。 VBMは、実際の慢性疼痛患者に臨現場でタスクをかけることなく、局所脳の脳灰白質体積、脳灰白質密度が測定でき、様々な問診表との相関も認められたので、慢性の痛みの客観的な評価法として臨床応用できる可能性が高いことが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
慢性疼痛患者を対象として、VBMを施行し、全脳のすべての局所脳領域の灰白質密度、 灰白質体積測定を行い、健常人と比較検討し、統計的な検討を行う。また、痛み関連脳領域を中心に慢性疼痛患者の問診表で得られた、抑うつ、不安、破局化思考、日常生活の障害度との相関解析を行う。 慢性疼痛患者の中でも、慢性腰痛患者、神経障害性疼痛患者、線維筋痛症患者を対象として、VBMを施行し、全脳のすべての局所脳領域の灰白質密度、 灰白質体積測定を行う。得られたデータを不快情動処理機構、認知機能、ドーパミン作動性中枢性鎮痛系、疼痛抑制系の局所脳領域で灰白質密度の評価を行う。健常人と比較検討し、統計的な検討を行い、慢性疼痛患者全体と同様に、痛み関連脳領域を中心に慢性疼痛患者の問診表で得られた、抑うつ、不安、破局化思考、日常生活の障害度との相関解析を行う。 集学的治療を必要とした慢性疼痛患者群で、VBMを施行し、全脳のすべての局所脳領域の灰白質密度、 灰白質体積測定を行う。治療により痛みが緩和する患者では、痛みが軽減しないものに比較して、痛みが正常化するに伴い、不快情動処理機構、認知機能、ドーパミン作動性中枢性鎮痛系、疼痛抑制系の局所脳領域の灰白質密度がどのように変化するか検討する。 平成26、27年度の結果をふまえて最終的にVBMを用いた慢性疼痛患者の不快情動の処理、認知、ドーパミン鎮痛系、疼痛抑制系などに関係する、痛み関連脳領域の灰白質密度、 灰白質体積を測定する方法を、痛みの脳機能画像評価法として確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が順調にすすんでおり、今年度の国際学会は日本の横浜で開催され、研究成果の解析もおおむねすすんでいることが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
研究協力者の謝金、学会交通費などに使用する予定である。
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