TRPA1は炎症のイニシエーターであり、手術侵襲による痛みを促進する。炎症と術後急性期の痛みの修飾機構の関連を、TRPA1欠損マウスをもちいて検討した。マウスの足底に切開創を作成し機械的刺激に対する疼痛閾値、好中球の浸潤、マクロファージの極性や炎症性物質の産生を術後7日間検討した。 TRPA1欠損マウスでは野生型マウスと比較して、機械的刺激に対する疼痛閾値に有意差は認められなかった。しかし手術部位のGr-1+好中球数はTRPA1欠損マウスにおいて減少を認めた。一致して、F4/80+iNOS+(M1)マクロファージも術後2日目に減少していた。炎症後期において炎症を収束し、創傷治癒を促進するF4/80+CD206+(M2)マクロファージも術後7日目に低下していた。このようにTRPA1欠損マウスでは、M1型からM2型へのマクロファージの極性変化と創傷治癒を促進するheme oxygenase-1の産生が低下しており、反対にTNF-αなどの炎症性サイトカインや、アラキドン酸カスケードにおいて炎症の促進と収束双方に関与し、急性痛と関連のあるCOX-2、15-lipoxygenase等の産生は術後7日目に増加していることが判明した。炎症初期の好中球やM1マクロファージの浸潤は急性痛と相関を認めるものの、後期における疼痛とCOX-2をはじめとする炎症性物質の産生量は必ずしも一致しないことが判明した。 TRPA1を介した末梢性感作と炎症の制御の検討から、炎症細胞を介さない痛みの末梢性機構が存在することが示唆された。M2マクロファージは内因性オピオイドを産生するが、炎症細胞によるオピオイドによる鎮痛機構へのTRPA1の関与も今後検討する予定である。
|