研究課題
申請者らはこれまでにPACAP(pituitary adenylate cyclase activating polypeptide)をマウス脊髄くも膜下腔に投与すると、数時間を超える慢性痛を引き起こし、PAC1シグナリングによる脊髄アストロサイト早期活性化がその寄与する可能性を見いだした。本研究ではPACAP-PAC1シグナルによる脊髄アストロサイト早期活性化メカニズムを検証し、本シグナルで駆動される下流分子群の中から疼痛慢性化に重要なグリア-ニューロン・クロストーク分子について検討し、以下の知見を得た。まず慢性疼痛分子の疼痛行動学的、組織学的、生理学的検討に関して、マウス にPACAP を髄腔内単回投与すると、後肢の機械的閾値は顕著に低下 (機械的アロディニア) し、少なくとも投与後12週まで持続し、この発症は、PAC1受容体アンタゴニストmax.d.4 の前処置により寛解された。一方、PACAPは熱性痛覚過敏を誘発しなかった。アストロサイトマーカー (glial fibrillary acidic protein;GFAP) の免疫組織化学とウェスタンブロット解析を実施したところ、投与後1日目から脊髄内GFAPの有意な発現上昇が認められ、少なくとも12週後まで持続していた。また、アストロサイト活性化阻害薬アジピン酸の同時投与により、PACAP/MAX誘発機械的アロディニアの発症は、ほぼ完全に阻害された。PACAP投与後30分で発現が誘導される遺伝子群としてBambiなど6種類見いだした。PACAPによる脊髄のANLS(astrocyte-neuron lactate shuttle)と疼痛慢性化の関連性の検討に関してはグリコーゲンホスホリラーゼ阻害薬であるDABの同時投与によりPACAPにより誘導される疼痛様行動が抑制される知見を得て、さらに解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度、まず慢性疼痛の一つである機械的アロディニア現象について、その疼痛行動学的解析を通じて、そのメカニズムの解明に取り組み、アストロサイトの活性化の重要性が示唆された。そしてPACAPによって発現誘導される遺伝子群の中に、PACAPによって引き起こされる疼痛に直接関係するであろうということが、特異的阻害剤の投与により明らかとなったことや、DABを投与することで同じくPACAPによって起こる疼痛が減弱するという興味ある知見を得たことから、当初の研究実施計画に基づいて概ね順調に研究が進行していると判断される。
平成27年度は、平成26年度に引き続いて、以下の1)慢性疼痛関連分子の疼痛行動学的、組織学的、生理学的検討、2)PACAPによる脊髄のANLS(astrocyte-neuron lactate shuttle)と疼痛慢性化の関連性の検討、3)脊髄由来初代培養アストロサイトを用いた検討のうち、1)については、昨年度関連性が示唆された慢性疼痛関連分子について、その作用メカニズムを検討したり、その遺伝子発現について脊髄での経時的変化の確認する。2)3)にについては、組織或は培養細胞における乳酸の動態をモニターする測定系を確立し、PACAP投与により乳酸の動態を観察する。また、それら一連の作用に重要なシグナル伝達分子の同定を行う予定である。
当該年度の研究が概ね順調に進み、想定していたよりも免疫組織化学やウエスタンの抗体類が手持ち分で賄えたため、費用が予定より少なく済んだため。
前年度に明らかとなった持続性疼痛に関連する遺伝子群、そのシグナル伝達物質の同定や、サイトカインアレイのために、特別な試薬や実験材料を使用する予定である。
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