研究課題/領域番号 |
26462384
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大納 哲也 鹿児島大学, 医歯学域医学部・歯学部附属病院, 助教 (60457661)
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研究分担者 |
栗原 崇 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (60282745)
宮田 篤郎 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (60183969)
上村 裕一 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (30211189)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | PACAP / PAC1 / アストロサイト / 慢性疼痛 / アロディニア |
研究実績の概要 |
申請者らはこれまでにPACAP(pituitary adenylate cyclase activating polypeptide)をマウス脊髄くも膜下腔投与すると、数時間を超える慢性痛を引き起こし、PAC1シグナリングによる脊髄アストロサイト早期活性化が寄与する可能性を見出した。本研究ではPACAP-PAC1シグナルによる脊髄アストロサイト早期活性化メカニズムを検証し、本シグナルで駆動される下流分子群の中から疼痛慢性化に重要なグリア-ニューロン・クロストーク分子について検討し、以下の知見を得た。まず慢性疼痛分子の疼痛行動学的、組織学的、生理学的検討に関して、マウスにPACAPを髄腔内単回投与すると、後肢の機械的閾値は顕著に低下(機械的アロディニア)し、少なくとも投与後12週まで持続し、この発症は、PAC1受容体アンタゴニストmax.d.4の前処置により寛解された。一方、PACAPは熱性痛覚過敏を誘発しなかった。アストロサイトマーカー(glial fibrillary acidic protein;GFAP) の免疫組織化学とウェスタンブロット解析を実施したところ、投与後1日目から脊髄内GFAPの優位な発現上昇がみとめられ、少なくとも12週後まで持続していた。また、アストロサイト活性化阻害薬アジピン酸の同時投与により、PACAP/MAX誘発機械的アロディニアの発症は、ほぼ完全に阻害された。PACAP投与後30分で発現が誘導される遺伝子群としてBambiなど6種類見出した。PACAPによる脊髄のANLS(astrocyte-neuron lactate shuttle)と疼痛慢性化の関連性の検討に関してはグリコーゲンホスホリラーゼ阻害薬であるDABの同時投与によりPACAPにより誘導される疼痛様行動が抑制される知見が得られた。さらに、慢性痛に関与する脊髄でのアストロサイトを中心とした神経伝達メカニズムの解析を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度、まず慢性疼痛の1つである機械的アロディニア現象について、その疼痛行動学的解析を通じて、そのメカニズムの解明に取り組み、アストロサイトの活性化の重要性が示唆された。そしてPACAPによって発現誘導される遺伝子群の中にPACAPによって引き起こされる疼痛に直接関係するであろうことが、特異的阻害剤の投与により明らかとなったことや、DABを投与することで同じくPACAPによって起こる疼痛が減弱するという興味ある知見が得られた。 平成27年度は、PACAPのPAC1刺激による機械的アロディニアにみられるニューロン内ERK活性化は、JNK活性化を伴ったアストロサイトの早期活性化が関与していることを見出した。また、PACAP髄腔内投与による長期間継続する機械的アロディニアはDABで抑制されるが、培養アストロサイトを用いたグリコーゲン量を測定を行った結果、アストロサイト‐ニューロン‐乳酸シャトルの関与を明確にできた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は平成26年度・平成27年度に引き続いて、以下の1)慢性疼痛関連分子の疼痛行動学的、組織学的、生理学的検討、2)PACAPによる脊髄のANLS(astrocyte-neuron lactate shuttle)と疼痛慢性化の関連性の検討、3)脊髄由来初代培養アストロサイトを用いた検討のうち1)については、昨年度までに関連性が示唆された慢性疼痛関連分子について、その作用メカニズムを検討したり、その遺伝子発現について脊髄での経時的変化を観察する。2)3)については、27年度に引き続き、組織あるいは培養細胞における乳酸の動態をモニターする測定を行い分析を進め、PACAP投与により乳酸の動態を観察する。また、それら一連の作用に重要なシグナル伝達分子の同定をさらに行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究が順調に進み想定していたよりも免疫組織化学やウエスタンの抗体類が手持ち分で賄えたことや、細胞培養に関する費用や乳酸測定などのニューロン関連物質の測定での費用が予定より少なく済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度までに明らかとなった持続性疼痛に関連する遺伝子群、そのシグナル伝達物質の同定や、サイトカインアレイを用い実験を進行するため、特別な試薬や実験材料を購入する予定である。
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