近年、疼痛による社会経済的な損失の大きさが注目されており、健康管理やペインクリニック等による疼痛管理の発展が望まれている。我々は中枢神経系における疼痛情報処理システムの中で、特に脊髄後角に注目しここで行われている侵害情報の伝達および修飾機構について、サブスタンスP、セロトニン(5-HT)、ノルアドレナリン(NA)およびオピオイドペプチドの神経に対する働きを手がかりに、疼痛や内因性疼痛抑制機構の仕組みなどの役割を明らかにしようとしてきた。 脳幹から脊髄後角に至る下行性抑制ニューロンは、5-HT系とNA系の二つに大別する事ができる。両者のニューロンはそれぞれ、延髄腹側の網様体に位置する大縫線核(nucleus raphe magnus:NRM)および青斑核(locus coeruleus:LC)とその近傍から脊髄後角Ⅱ層へ投射し、抑制性に作用することが知られている。しかしながら、この神経メカニズムについては不明な部分も多く、特に後角における上位中枢への投射ニューロンが局在するⅢ~Ⅴ層のニューロンとの関わりについては未知のままである。我々はこの点にスポットを当て主にパッチクランプ法を用い検討した。その結果、後角深層の約40%のニューロンが5-HTに対し膜電流応答し、20%のニューロンがNAに対し応答した。これらの応答はいずれも興奮性のものであり、これらのニューロンはほぼ例外なくサブスタンスPにも興奮性に反応した。このように我々は、後角深層において初めて下行性抑制ニューロンと考えられてきたニューロンが、疼痛情報を受容する二次あるいは介在ニューロンの興奮性を高めることを明らかにしたのである。これらの結果の意義について我々は、脳幹からの下行性ニューロンは脊髄後角において侵害情報を促進的に処理するものと考えている。
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