研究課題/領域番号 |
26462390
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
篠原 信雄 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90250422)
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研究分担者 |
間石 奈湖 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, その他 (00632423)
土屋 邦彦 北海道大学, 大学病院, 助教 (50374442)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 腫瘍血管新生 / biglycan, LOX / 転移 / 腫瘍血管内皮 |
研究実績の概要 |
今年度はがん患者における病期または転移の有無による血清中biglycanの検出をおこなった.患者血清中のbiglycanががんの病期および転移の有無と関連があるのかを検証した.対照として健康成人からの血清を用いた.がん患者の血清中にbiglycanが高いレベルで検出される患者が存在していた.さらに転移がある症例でbiglycan が高い傾向を見出している.今後は症例数を増やして解析をおこなう.また,マウス腫瘍モデルを用いて癌の進展にともなう経時的な血中のレベルの変化を解析した.Biglycanは転移が検出される時期に,がんの増殖の後期から末期で増加することが見出された. なお, LOX, biglycanは,転移能が異なる腫瘍内の血管内皮における発現も異なっていた. さらに,マウスモデルを用いて,LOX,biglycanの発現とがんの転移との関連について詳細に検討を加えた.腫瘍血管内皮細胞と腫瘍細胞との共移植の系でbiglycanをノックダウンしたところ,転移が抑制された.このことから,腫瘍血管内皮のbiglycan ががんの転移を促進していることが示唆された.また他の腫瘍血管内皮マーカーのLOXに関しては, LOXを発現しない腫瘍細胞をマウスに皮下移植し,血管内皮にはLOXが発現することを既にわれわれが明らかにしたモデルを用いて血管内皮のLOXの阻害による転移への影響を解析した.LOXの阻害にはBAPNを用いた.LOXの阻害により確かに癌の肺転移が抑制されることが見出された.以上のことより,腫瘍血管内皮由来のLOXはがんの転移形成に関与していることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り,がん患者の血清を用いてbiglycan の検出を試みているが,腫瘍組織の凍結切片が用意可能な症例を用いて,血清中のbiglycan が確かに腫瘍血管由来であることを同時に検証しながら解析をすすめている. 血液と凍結標本の両方をそろえられる症例を選びながら検討をおこなっているため,症例数を確保することに時間がかかっている.一方,マウス腫瘍モデルを用いて腫瘍血管由来のLOX, biglycanの転移における機能解析は順調に解析を進めることができているため,そちらのほうをすすめている.Biglycan の発現が異なる腫瘍血管内皮細胞の樹立も高転移,低転移腫瘍から分離することができており,平成27年度計画の実行に向けてのマテリアルが得られた.また,腫瘍細胞にルシフェラーゼを導入することにより,肺の微小転移を検出する系も立ち上げることができたことも大きな進捗である.LOXに関しては阻害剤が市販されているが,biglycanの阻害のための中和抗体や阻害剤は市販されていない.われわれは,in vivo における腫瘍血管のbiglycan の阻害が転移の抑制につながるかどうかを検証するために,既にこれまで薬学研究院原島グループとの共同研究により開発した腫瘍血管特異的ドラッグデリバリーシステムを用いて,biglycan siRNAを腫瘍血管内皮に導入し,転移に対する影響も解析している.腫瘍血管内皮マーカーであるLOXとbiglycanの転移における機能の解明は計画通り概ね順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降はがん細胞と腫瘍血管内皮細胞の相互作用の解析を行う. 転移能の異なる腫瘍を皮下移植したマウスから分離された腫瘍血管内皮細胞がそれぞれLOX, Biglycan の発現が異なることを見いだしている.そこでLOX、biglycanの発現に相違がある腫瘍血管内皮細胞を用いて,がん細胞との細胞間相互作用を解析する.腫瘍血管内皮細胞が分泌するLOXまたはbiglycanは、がん細胞の増殖、浸潤に直接作用する可能性がある. LOX(もしくはbilglycan)高分泌の腫瘍血管内皮細胞はこれらの分泌の少ない腫瘍血管内皮細胞と比較しがん細胞株の浸潤をより誘導するのかを解析する.方法としてはMatrigelでコートしたTranswellを用いて、上室にがん細胞株(ヒト)下室に腎腫瘍血管内皮細胞(マウス)をおいて、VEGF-A 10ug/mLを添加し16時間培養の後、浸潤した細胞をカウントする。これにより申請者らが推察している腫瘍血管内皮細胞が分泌するLOXおよびbiglycanによる腎がん細胞の浸潤促進作用がin vitroにおいて明らかとなる. さらに,内因性biglycanの発現の相違による腫瘍血管内皮細胞の接着能の比較を行う.具体的にはbiglycanの発現の異なった腫瘍血管内皮細胞を用いてin vitroでの細胞接着能の比較を行う. 方法としては、gelatinもしくはfibronectinでコート培養皿に血管内皮細胞を播種し30-90分後に接着した細胞をカウントする。
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次年度使用額が生じた理由 |
血液と凍結標本の収集には予定より時間がかかっているため,臨床検体を用いた検討に時間がかかっているため次年度に繰り越すことになった.
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次年度使用額の使用計画 |
当初予定していた通り,組織学的解析に必要な試薬や抗体に充てる予定である.
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