ユビキチン系蛋白質分解は、ユビキチン化酵素が標的蛋白質をユビキチン化(分解標識)し、プロテアソームと呼ばれる複合体で速やかに分解する機構である。ユビキチン化は、シグナル伝達や転写に関わる標的蛋白質を分解することで、適切なシグナル・転写活性調節を行っている。反面、ユビキチン化酵素の異常は、癌や神経変性疾患等の原因となっている(腎癌におけるVHL、乳癌におけるBRCA1等)。 前立腺癌で特異的に発現するユビキチン化酵素TRIM68の機能解析を行い、ユビキチン化酵素を介した去勢抵抗性前立腺癌に対する新しい治療薬への臨床応用に展開するための基盤となる研究を行っている。 今回、TRIM68恒常過剰発現・前立腺癌細胞株(22RV1)を用いてルシフェラーゼアッセイにてアンドロゲン受容体の転写活性を調べた。結果、アンドロゲン刺激により通常の22RV1細胞に比べてTRIM68過剰発現22RV1細胞において有意にアンドロゲン受容体の転写活性が上昇していることが判明した。 この細胞株を用いて癌に関連する表現型を調べた。残念ながら、この細胞株はあまり細胞増殖が増加していなかった。しかしながら、TRIM68の発現を減弱させた細胞(ノックダウン細胞)においては細胞増殖の抑制が確認された。これにより、TRIM68が前立腺癌の細胞増殖維持に関与している可能性が示唆された。 また、TRIM68ノックアウトマウスの作製が最終段階に至り、前立腺の発生や発癌におけるTRIM68の影響を動物実験レベルで検証予定である。
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