本研究の目的は、前立腺癌におけるEMTの意義を検討し、その制御機構並びに去勢抵抗性前立腺癌の標的治療の可能性について検討することである。前々年までの研究の一部において、限局性前立腺癌200例に対して免疫組織学的検討を行なった結果、E-cadhrinは独立した再発予測因子であったが、N-cadherinは予測因子とは認められなかった。当院で局所治療または全身治療後に去勢抵抗性前立腺癌となり、研究に同意された20例弱の前立腺生検検体について免疫組織学的検討を行なった。この検討においてはコントロール検体と比べN-cadherinおよびtwistの発現亢進が認められ、また予後予測因子であることが確認された。前年度に高感度CTC検出システムを用いた去勢抵抗性前立腺癌患者におけるCTC検出を行なったが、その後にさらなる感度上昇をシステムにもたらすための最適化が困難であり、システム構築を断念した。今年度は当教室で樹立したN-cadherin発現ベクターを前立腺癌培養細胞株に導入しN-cadherin高発現株のin vitro実験を行なった。N-cadherin高発現株は親株に比べ、有意に増殖能が高く、また強い浸潤能を獲得していた。ドセタキセルおよびカバジタキセルによる抗癌剤耐性を示した。ストレス関連蛋白で前立腺癌の薬剤耐性獲得に関与していると考えられるクラスタリンはN-cadherin導入株で高発現していることが観察された。クラスタリンの発現低下をもたらすアンチセンスオリゴにより治療を行なうことにより、in vitroでドセタキセルおよびカバジタキセルによる抗癌剤耐性獲得を阻害することに成功した。本研究の研究期間は終了となるが、今年度に得られた知見は、前立腺癌における薬物療法耐性化克服に向けた分子標的治療の開発に期待が持てると考え、当研究室で今後も研究を継続・発展させる予定である。
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