研究課題
近年、膀胱癌に対する術中診断法として、光感受性物質であるアミノレブリン酸(ALA)を用いた光線力学診断(PDD)が実施されている。これはALAを投与した後に腫瘍特異的に蓄積するポルフィリンの蛍光により癌を診断する手法である。この診断の根幹であるALA投与後のポルフィリン蓄積に関して、鉄ポルフィリンを分解する酵素であり、ストレス応答タンパク質として知られるこのヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)が、腫瘍特異的に飛躍的に亢進していることが明らかとなった。そこで、本研究ではストレス応答タンパク質として知られるこのHO-1の腫瘍での役割を詳細に検討する。昨年度までに臨床検体を用いてHO-1の発現量を詳細に検討した。その結果、ALA投与後の膀胱がん検体では正常上皮と比較してHO-1遺伝子の発現が約3倍と飛躍的に亢進していることが明らかとなった。さらに興味深いことに、悪性度の高い上皮内癌(CIS)においては正常と比較して約4倍の発現量を有することが明らかとなった。これは網羅的に測定した遺伝子の中でも最も顕著な変動であり、HO-1に着目する本研究の妥当性を裏付ける結果となった。さらに解析を進めた結果、HO-1は特に細胞遊走能に大きな影響を示しており、癌転移と密接な働きを示すことが明らかとなった。昨年度までにHO-1の腫瘍における役割がある程度理解できたため、HO-1によって引き起こされるポルフィリン代謝関連遺伝子変化および制癌効果の測定を本年度の目的とした。その結果、休眠癌細胞モデルにおいてはポルフィリン代謝関連遺伝子が大きく変化することを明らかとした。さらに、休眠癌細胞ではポルフィリンが多く蓄積し、光線力学治療を行うことによって癌が死滅することを示した。すなわち、HO-1よりもたらされるポルフィリン代謝変化の全容を明らかとし、これまで困難であった休眠癌細胞を死滅させることに成功した。
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Sci Rep
巻: 6 ページ: 36478
10.1038/srep36478