本研究の目的は、ラットを用いた抗体関連型拒絶反応(AMR)のモデルとして、アロ皮膚移植片によって感作後の抗ドナー抗体(DSA)の推移を解析し、その感作モデルにヒト免疫グロブリンの大量投与 (IVIG) を行うことでDSA産生の推移や作用機序を解析することである。その背景としてヒト腎移植においてAMRはしばしば治療に難渋し、IVIGが治療法の一つとして挙げられるものの、その病理学的な効果や免疫学的な機序が不明であることが挙げられる。当該年度までにおいて以下の4点について結果を得ることができた。 1 DSAの低下:皮膚移植を施行した感作ラットにおいて、ヒト免疫グロブリン2.5 g/kg/週の連続投与で前感作状態と同等のレベルまでDSAを低下させることが可能であった。その動態は投与後2週間でDSAは低下しはじめ、投与後10週まで低下し続けた。 2 移植腎生着期間の延長はわずか:そのようなIVIG感作ラットに感作した皮膚と同じ系統のラットの腎移植を行うと平均4日とわずかであるが、IVIG非投与感作ラットと比較して移植腎生着期間が有意に延長することが判明した。 3 組織学的所見の改善:ただし組織学的な検討において、AMRの所見である糸球体炎、傍尿細管毛細血管炎などの組織所見をみてみると、IVIG感作ラットのほうが、発症自体を抑制させることは不可能であったが、発症時期を遅らせていることが判明した。 4 IVIG投与においてB細胞活性化因子(BAFF)の低下、IL-4の上昇、調節性T細胞の上昇が認められた。 以上これらの結果は感作ラットモデルにおいて、AMRの治療としてのIVIGの直接的な作用機序と経時的な病理学的変化を証明できた知見として意義があると考える。ただしこの知見は一方でIVIGのみではAMRを完全に制御することはできず、さらなる併用治療が必須であることを示している。
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