精巣精子細胞特異的に発現するGalntl5遺伝子のヘテロ欠損マウスでは、精子運動能低下による雄性不妊の表現型が観察され、この表現型がヒト男性不妊症の一つである精子無力症の症状に酷似していることを我々は報告してきた。そこで、精子無力症の発症原因を効率良く同定するために、ヒトゲノムにも存在するGALNTL5遺伝子の変異によって発症した精子無力症の検出方法の確立をモデルとして、Galntl5遺伝子欠損マウス精子で観察された複数の精子タンパク質量の変動を基に、精子無力症患者精子を対象にマーカータンパク質量の変動を検出するスクリーニング方法の開発を試みた。開発した手法を用い、実際に200例の精子無力症患者の中からヒトGALNTL5遺伝子上に変異が推測された45例の精子無力症患者の選別し、その中から実際に母親由来と推測されるヘテロの1塩基欠失によって精子無力症を発症した症例を同定することに成功した。更に次世代シークエンスサーによる感度の高い遺伝子変異検出法の導入によって、極僅かな精子幹細胞の遺伝子変異が原因と推測される極めて稀な精子無力症発症例の同定にも成功することができた。 一方、精子無力症の発症原因因子の同定を容易にするマーカー精子タンパク質の数を増やすことを目標に、最終的に本年度終了までに10個の分子マーカータンパク質抗体を有効に使用できる条件を確立した。GALNTL5遺伝子変異を起因とする精子無力症患者のスクリーニングのみならず、他の精子無力症の発症原因因子同定に10個の分子マーカータンパク質抗体が有効に機能するか、今後200例の精子無力症患者精子を対象にマーカータンパク質の変動を観察すると共に、次世代シークエンスサーを用いた遺伝子変異の検出によって開発手法の有効性を検証したい。
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