研究実績の概要 |
子宮筋腫細胞と正常子宮筋細胞を低酸素(1%酸素)と通常酸素(20%酸素)条件下に培養し、子宮筋腫における低酸素誘導因子Hypoxia inducible factor-1 alpha(HIF-1α)を介した低酸素反応を検討した。HIF-1αは低酸素下でタンパク分解が阻害されることで、標的遺伝子の転写調節を行うことが知られている。そこでまず、低酸素と通常酸素下に培養した子宮筋腫、子宮筋細胞からタンパクを抽出し、HIF-1αのタンパク発現を比較検討した。HIF-1αの低酸素刺激により子宮筋腫、正常子宮筋ではHIF1αのタンパク発現量がともに増加したが、筋腫では子宮筋よりも上昇の割合が緩慢であった。一方、HIF-1α mRNA発現量は子宮筋腫、正常筋ともに低下しており、mRNA発現の低下割合は筋腫で子宮筋よりも緩慢であった。 次に子宮筋腫と正常筋における低酸素と通常酸素培養下のHIF標的遺伝子のmRNA発現変化を、比較検討した。KEGGデータベースからHIF signaling pathwayに存在する10種類の遺伝子を抽出し、定量的RT-リアルタイムPCR法にて筋腫細胞および正常筋細胞におけるHIF標的遺伝子のmRNA発現を比較検討した。その結果、抽出した10遺伝子すべてでHIF-1αタンパクの発現と同様、低酸素培養下で増加した。さらにその増加割合は9遺伝子(ALDOA, ENO1, GAPDH, HK1, PFKL, PFKFB3, LDHA, SLC2A1, VEGFA)において、筋腫で正常子宮筋よりも緩慢だった。 以上より、子宮筋腫では正常子宮筋と同様、低酸素刺激によりHIF-1αのタンパク分解が阻害され、HIF-1αのタンパク発現量が増加し、HIF-1標的遺伝子の転写活性が亢進する可能性が示唆された。また、筋腫では子宮筋に比べHIF-1αを介した低酸素応答が減弱していて、この低酸素応答の減弱が筋腫の特性を示していると考えられた。
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