羊水中に存在する肺サーファクタントと胎脂の体内動態を評価するために、125I(American Radiolabeled Chemicals Inc.)で標識された肺サーファクタント製剤(サーファクテン:STA,田辺三菱製薬)を用いた動物実験を行った。 SIB法を用いて、125I標識STAを合成し、塩酸メデトミジン、ミダゾラム、酒石酸ブトルファノールによる3種混合麻酔下に、125I標識STAを妊娠ウサギ羊水腔内(右子宮卵巣端第1位)に投与した。60分後(n = 1)、12時間後(n = 3)、24時間後(n = 5)、48時間後(n = 3)に帝王切開を行い、母体と胎仔の125I標識STAの体内分布を検討した。本実験は、福井大学動物実験委員会の承認の下、福井大学松岡キャンパス共同利用施設放射線障害予防規程に則って行われた。 羊水腔に投与された125I標識STAは、投与後30分で母体血中に移行した。その後、母体の各臓器に移行し、大部分は尿から排出された。また、125I標識STAは、投与胎仔と投与群以外の胎仔の全ての臓器に分布した。中でも、胃、胃液、腸管への集積率が高かった。 報告者はこれまで、STAミセル溶液の持つ未熟腸管への保護作用に着目し、研究を進めてきた。本研究で示された胃、胃液、腸管における125I標識STAの高い集積率は、これまでの研究成果に矛盾しない。近年、肺サーファクタント特異蛋白であるSP-AやSP-Dの生体防御機能が注目されているが、出生直後の新生児の消化管に高濃度の肺サーファクタントが存在することは、新生児の免疫能獲得の過程を考える上で非常に興味深い。本研究を更に発展させることにより、羊水中に存在する肺サーファクタントと胎脂の生物学的役割を明らかにし、ヒトの発生段階における肺-皮膚-消化器間の相互関係の解明がなされることを期待する。
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