子宮内膜症合併不妊の多くは難治性であるが、炎症性サイトカインをはじめとする炎症関連物質や卵巣ホルモンが複合的に関与していることが知られている。特に、子宮内膜症による骨盤内炎症が、生殖年齢女性の卵巣機能低下の原因となっている可能性が示唆されている。月経血や腹水中の細菌性エンドトキシン濃度の上昇と子宮内膜症の病態との関連が示唆されている。ヒト子宮内膜症間質細胞への細菌性エンドトキシン・リポポリサッカライド(LPS)添加がシクロオキシゲナーゼ-2遺伝子およびプロスタグランジンE2(PGE2)産生を促進し、細胞増殖と浸潤を促すことを明らかにした。本研究では、子宮内膜症モデルマウスを用いて、LPS投与が子宮内膜症病巣形成に及ぼす影響について検討した。LPS投与は、マウスあたりの病巣個数、総重量および表面積を増加させた。LPSによる病巣形成は、NF-κB阻害剤であるパルテノライドあるいは抗炎症剤デキサメサゾン投与により抑制された。病巣組織中の細胞増殖能や炎症反応強度を表すマーカーの免疫染色を行った。LPS投与により、それらの陽性細胞率は上昇し、リン酸化NF-κBの染色強度も増強した。LPS投与群では、疼痛の指標あるいは代表的な炎症性サイトカインの遺伝子群の発現が増加した。子宮内膜症モデルマウスにおいて、細菌性エンドトキシンは骨盤内炎症を惹起することでNF-κBの活性化を介して、子宮内膜症の初期病巣形成を促進することが示唆された。マウス卵胞体外培培養システムを構築し検討したが、当初の計画に合致したデータが得られないことから、抗炎症作用のある新規薬剤とモデルマウスを用いて、同様の検討を行った。鎮痛効果をみる行動学実験も行った。本研究成績は、子宮内膜症合併不妊の新たな治療戦略の分子基盤の一助になると考えられた。
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