妊娠初期,正常妊娠では絨毛細胞が母体の脱落膜内に浸潤し,らせん動脈の血管再構築を行うことで,胎児へ大量の血液を供給している。しかしながら,妊娠高血圧症候群ではこの絨毛細胞の浸潤が障害され,血管の再構築が障害されることにより,胎盤形成障害から 胎児発育不全や母体の高血圧・蛋白尿などを発現する。我々は,絨毛細胞の浸潤にHMGA1が関与していると考え,研究を行ってきた。 現在までに,妊娠高血圧症候群モデルマウスの脱落膜で絨毛細胞の核内HMGA1が核外に移行していることを証明した。また,deoxycholic acidによってHMGA1の核外移行を促進すると,絨毛細胞の浸潤能が低下した。healing assayでも傷の近くにこの現象が生じており,HMGA1が核外に移行すると細胞の浸潤能は低下すると考えられる。このことは,妊娠高血圧症候群の脱落膜における絨毛細胞ではHMGA1の核外移行が生じ,そのために絨毛細胞の浸潤能が低下し,血管の再構築・胎盤形成が障害されていると考えられる。HMGA1 DNAのtrasnfectionだけでは,healing assay・Boyden chamberを用いた検討において,絨毛細胞の浸潤能が促進され,HMGA1のsilencingによ って浸潤能が低下したことから,核内HMGA1の増加は絨毛細胞の浸潤能を促進すると考えられる。HMGA1は絨毛細胞の浸潤能に大きな影響を及ぼす因子であることが証明された。更に,妊娠高血圧症候群モデルマウスにおいて,着床3日後にHMGA1の細胞外分泌が認められたことから,この反応が病態形成に関与している可能性が考えられた。
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