研究実績の概要 |
「卵子幹細胞」(oogonial stem cells: OSCs)に関するTillyと我々による共同研究報告(White YA, et al. Nat Med, 2012)に対しては、複数の懐疑的な論評や反証(Zhang H et al. Nat Med, 2015)が呈示される一方、Tillyらとは別個に複数の報告が続いており(Ding X et al. Sci Rep, 2016;Silvestris E et al. Hum Reprod, 2018)、OSCsの応用に向けた議論が始まっている。更に、最近我々は、Tillyらとの共同研究において、胎生47~137日(妊娠第1・第2三半期にあたる)のヒト胎児卵巣の定量プロテオミクスによって、DNAミスマッチ修復と塩基除去修復に関わる蛋白の発現量が増加すると同時に、MAELとTEX11という減数分裂関連蛋白が胎児卵子形成に伴って強発現することを発見した。更に、このMAELとTEX11の強発現がOSCsの卵細胞への分化過程やES細胞の始原生殖細胞様細胞や卵細胞様細胞への分化過程でも確認されたことを報告し、OSCsが卵子・卵胞の発生モデルとして有用である可能性を示した(業績参照)。 このような「卵子幹細胞」に関する研究の経緯と今後の展望に関して、『精巣と卵巣の幹細胞』のテーマでシンポジウムを行った(業績参照)。この中で、OSCsのユニークな特性に関する報告が続いており、生殖医療や妊孕性温存(卵巣凍結など)への応用の可能性も考えると、今後の発展が期待される領域でもあることなどを指摘し、報告した。 また、性同一性障害患者から得られた凍結卵巣によって得られた知見を実臨床に応用するため、若年悪性腫瘍患者の卵巣の凍結保存を開始し、わが国の若年悪性腫瘍患者に対する妊孕性温存体制を整備・拡張するための情報発信を行い(業績参照)、産科婦人科学会、日本癌治療学会の妊孕性温存に関するガイドライン作成に参画した(業績参照)。
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