研究実績の概要 |
ヒト卵巣組織の凍結保存は、悪性腫瘍に対する化学療法や放射線療法によって卵巣機能が損なわれる可能性がある若年がん女性、特に卵子凍結ができない思春期前の女児の生殖機能を温存するために不可欠の技術である。しかし、妊娠するためには再移植が必要であり、移植組織からの悪性腫瘍の再発の可能性があることが問題であった。これを克服することを目的として、我々がヒト卵巣組織から抽出した「卵子幹細胞」(oogonial stem cells: OSCs)(White YA, et al. Nat Med, 2012)の体外培養によって卵細胞を得るための基礎的研究を施行した。平成30年度は、OSCsから卵細胞が分化する際には細胞外マトリックス(ECM)による微小環境が重要であり、マウスではコラーゲンが、ヒトではラミニンがOSCsの分化を促進することを発見した。更に、ヒト胎児期卵巣における細胞外マトリックス関連タンパクの発現状態のコンピュータ解析(プロテオミクス)によって、卵原細胞から卵子が分化する妊娠17週の卵巣ではラミニンの発現が増大することを報告した(業績参照)。従来、OSCsなどの生殖幹細胞から卵細胞を分化させるためには胎児期の卵巣組織が別途必要であったが、本研究の成果はOSCsを用いた「人工卵巣」構築への重要な足がかりとなるものである。 このようなOSCsに関する研究の経緯と今後の展望に関して、生殖内分泌学会雑誌に総説を寄稿した(業績参照)。 また、性同一性障害患者から得られた凍結卵巣によって得られた知見を実臨床に応用するため、若年悪性腫瘍患者の卵巣の凍結保存を開始し、わが国の若年悪性腫瘍患者に対する妊孕性温存体制を整備・拡張するために英文雑誌、書籍、招請講演などで情報発信を行い(業績参照)、日本産科婦人科学会、日本がん・生殖医療学会と共同で、日本独自の患者登録システムを設立した(業績参照)。
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